ドローンレーサー

 ポーラが着替えて出てきた格好は、黒革のレオタードだった。大きく胸が空いている。
 同じく黒革のニーハイブーツとロング手袋、それに束ねたムチを持っていた。
「悪いけどポーラには悪女の役をやってもらう。マスクを付けるから顔バレしないし、いいだろう?」と、赤く尖ったマスクを投げ渡すと、広部が説明を始めた。
「歌とダンスだけじゃ、他のアイドルたちと差別化できない。そこで君たちには寸劇もやってもらうことになった。要するにミュージカルみたいなものだ。たったの五分だから心配ない。未来から来たとか、あっちの世界とかこっちの世界とか、君たちが普段言っている、訳のわからないことをそのままストーリーにしてみた。これに合わせて新曲も作った。名付けて宝塚田作戦。『きよく、ただしく、いじわるく』だ。いいな!」
 宝塚田というからには、寸劇のストーリーは、オスカレとアンドルーの『ベルサイユの薔薇族』みたいな恋愛ものかと思ったら、かなり違った。
 まずレイワが原始人の役目で登場する。氷河期で食糧難という設定。レイワ以外のすべての原始人が死に耐え、レイワしかいない。生存の危機。
 うろうろしているうちに、洞穴に入ると、太陽神が描かれた壁画があり、レイワがその絵に触れると、未来世界にワープする。
 そこは宇宙船の中。 
 宇宙空間を漂流したため、食料が尽きて、腹ペコの宇宙飛行士ベティがいる。
 レイワは石斧で叩き殺して、ベティを食おうとする。
「ちょっと待って、あなたはエイリアンじゃないわよね。これをあげるから私を食べないで」と言いながら、ベティは最後の食料、歯磨きみたいなチューブ状食料を投げ渡すつもりが、間違えて本物の歯磨き粉を渡してしまう。
 レイワはチューブをそのままかじって、泡を吹きながら怒り狂う。
 ベティは光線銃で応戦するが、外れて宇宙船に穴があく。そこから空気と一緒に放り出された二人は、江戸時代の牢屋の中にワープする。
 そこには仮面をつけた、極悪人の囚人、ポーラがいた。
「へっへっへっ、新入りさんかい? あたしゃ、悪いことで、してないことはなんにもないのさ」と薄笑いを浮かべ、二人をマウンティングしようとする。
 おびえるベティは、勇気を振り絞ってポーラに話しかけてみる。