ドローンレーサー

 韓は激昂し、カンカンになって怒っている。マスクガールズにオイルを入れられたと思い込んでいることもあって、めちゃくちゃ機嫌が悪い。ミニ丈で切ったチマチョゴリなんて、どう見ても、寸足らずの、てるてる坊主にしか見えないからだ。
 しかし、広部は意に介さない。
「君にはお姫様の役をやってもらう。ある意味、主役だ。今後は絶対に下品な言葉を使ってはいけないよ」
 広部がそう言うとティアラを韓に手渡し、それを頭につけるよう命じた。主役と言われ、ティアラを手にした韓は、少し大人しくなった。
 レイワは原始人のようなヒョウ柄のビキニ。
 広部はレイワに、石斧と、江戸時代の岡っ引きが持つ、十手を渡した。
「君には、原始時代から来た、警官の役をやってもらう」
 レイワはあっけにとられているが、恥ずかしがってはいなさそうだ。
 最後に、着替え室のドアから王が顔だけ出した。恥ずかしいのか、なかなか出てこようとしない。上半身だけ出すと、それは赤いチャイナドレスだった。
「キャー! ワンチャンカワイ~! ハオチ~!」
 先に出ていたみんなが囃し立てる。
「それ違うアルヨ! ハオチ~はおいしいのことアルヨ。カワイイはクアイ、アルヨ」
 と言いながらドアで隠していた体を全部見せると、丈の短い、ミニスカートのチャイナドレスだった。さらに、両サイドに深いスリットが入っている。
「キャー! クアイクアイ、ワンチャン、クアイ~よ!」
 と全員が叫ぶと、ツインテールにした王の顔が真っ赤になった。
 広部は王に手裏剣を数枚と、かんしゃく玉を一袋手渡す。
 かんしゃく玉とは、投げつけたり、踏んづけたりすると、「パンッ!」と威勢のいい音を立てて爆発するクラッカーボールのことだ。
「これで何するアル?」
 王は恥ずかしい時、中国人の口真似をする癖がある。小さな頃、男の子たちにそう言われていじられた記憶があるのだ。頭の回転の早い王は、逆にその言葉を使い、児童養護施設や小学校の男の子たちの人気者になった。
「ワンちゃんには、中国人の女スパイの役をやってもらう」
 広部は、かんしゃく玉の使い方を王に教えながらそう言った。
「ポーラ、君も着替えてくれ」
「え? あたしも、ですか? 何をやるんですか?」と、ポーラ。
「いいからとりあえず、着替えてくれ。これは勝負なんだ」
 広部はポーラに衣装の入った紙袋を手渡す。