ドローンレーサー

 砂浜を走る自転車、ビーチクルーザーが波打ち際の方から走ってきて、狩田の脇を走り抜けた。太いタイヤの跡には蟻の死骸の黒い筋。
 こんもり盛り上がっていた蟻の巣も踏みつけられ、つぶれていた。
 蟻たち一匹一匹、性格も、能力も違うだろう。働き者も、怠け者もいる。夢のシュガークッキーにたどり着いたと思ったら、カモメに食われた。落ちこぼれた蟻は生き残った。
 自転車や人が歩いたところが、数センチずれたら、死なずにすんだ蟻もいるだろう。
 ほんのちょっとした場所や時間のずれで、大きく運命が変わる。
「なにもかも、運次第なのかもしれないな……」
 真っ暗になって蟻が見えなくなるまで、狩田は古びた木の箱に座って地面を見つめていた。
 
 現在  東京 原宿  

「ちくしょう! マスクの奴らが同じ部屋じゃなきゃよかったのよ、いったいだれ? マスクと一緒にライブやるって決めたのは! 本当は、やっぱり、あいつらが私の靴にこっそりオイル入れたのよ、そうに違いないわ! あーむかつく!」
 昨日の大失敗から一夜明け、韓が思い出して怒りはじめた。まったく反省していない。
「あたしもう嫌っ、やっぱり辞めたい! 辞めて未来に帰りたい」
 小学六年生の、王が泣き出した。昨日の公演失敗のお仕置きとして、出前でとる、春来軒のチャーシューメンを禁止されたからだ。今日のおやつも、まだもらえていなかった。
「だいじょうぶ、だいじょぶよ、ワンちゃん、なんとかなるわ、これあげるから」
 と、ベティが言いながら、持っていた飴ちゃんを王に手渡した。
 今度ばかりは、韓の態度にレイワとヘドロも、少しうんざりしてへこんでいる。
「あっ! そうだっ! 良いこと思いついたっ!」
 ベティから飴をもらって泣き止んだ王が、顔を上げた。
「あのヒット曲を歌えばいいのよ! ほら、あの『XOZAIL』を卒業した、入れ墨だらけでサングラスのあの人。『DJBOOZILA』の曲、『お好み次第』!」
「え~、それじゃあパクリじゃん。だめだよそんなことしちゃ」と真面目なベティ。
「パクリじゃないわ。私たちの方が先ってことになるでしょ。だってここは過去だもん」
「でもそれは誰か別の人が作った曲でしょ。それはパクリになるわよ」とレイワ。
「誰か別の人が作る前じゃない、今は。そうでしょ。だったらパクリじゃないわ」