ドローンレーサー

 パタヤビーチにオレンジ色の夕日が沈む頃、リサと似たような女の子が夕日のシルエットの中から現れ、狩田は一瞬、緊張するが、よく似ただけの別人だった。
 夕日が水平線に近くなると、ビーチの人影もまばらになる。
 アイスクリームスタンドも店じまいを始めた。
 ビーチは綺麗だが、そのすぐそば、遊歩道の辺りは、スナック菓子の食べかすや、アイスクリームのスティックが散乱している。
 アイスクリームスタンドの店員は、掃除もしないで引き上げていった。
 狩田は木の箱に座ったまま、沈む夕日を見ていたが、若い狩田もリサも、とうとう現れなかった。がっくりと肩を落とし、地面を見つめた。
 スナック菓子の食べかすに群がる蟻がいる。
 アイスクリームのスティックにも群がっている。
 一羽のカモメが飛んできて、蟻が群がったままのスナック菓子を咥えて飛び去った。
 カモメが咥えた瞬間、落ちこぼれてしまった蟻は、何事もなかったかのように、アイスクリームのスティックに群がる。
 よく見ると、餌を運んでいない、働いているふりをしているだけの蟻もいる。
 仕事をさぼっているのか寝ているのか、動かないのもいる。
 こんもり盛り上がった蟻の巣の小さな穴に、餌を咥えた蟻が、行列をなして入っていく。別の穴からは、手ぶらの蟻が、忙しそうに出てくる。
 アイスクリームのてっぺんにのせるシュガークッキーが落ちていたが、蟻にはそれが一番人気のようだ。何百匹という蟻が群がって真っ黒になっている。
 ポテトチップスの空袋の中にも、どんどん蟻の群れが入っていく。
 海岸を清掃する太ったおばさんが大きな黒いゴミ袋を片手に、ぶらぶら歩いて来た。
 慣れた手つきで長いトングを使って、ひょいひょいと、ゴミを拾っては袋に入れる。 
 ポテトチップスの空袋も、アイスクリームのスティックも、蟻ごとゴミ袋行き。
 おばさんがビーサンで歩いた足跡は、踏みつけられた蟻の死骸だらけ。
 死に損なって、もがいているのも沢山いる。
 もう一度、別のカモメが飛んできて、一番人気のシュガークッキーを咥えて飛んでいった。ぱらぱらと、蟻が落ちこぼれていくのが見えた。
 ジョギングの太ったおじさんが走り去る。
 靴跡には大量の蟻の死骸。たまたま、靴底の溝に居た蟻は、生きていた。