ドローンレーサー

 過去の自分は、現実逃避の自分探しの旅をして東南アジアをあてもなくうろついていた。
 そんな自分を軌道修正するため、狩田は、昔の自分を探しに来たのだ。
 約三十年前、就活に全敗した狩田は、東京から逃げるように東南アジアへと旅立った。
 リサ・テゾンは、狩田がタイのパタヤビーチで気まぐれにナンパした。日本に連れ戻り、漫画雑誌のオーディションを受けさせたらあっさり合格する。幼年チャンプや週刊ブレイナボーイに掲載されると、その人気はあっという間に爆発した。
 リサはドールキッズ社からスカウトを受け、要領のいい狩田は、リサの担当マネージャーとしてドールキッズの社員となる。リサのおかげで就職できたということだ。
 しかし、リサは社を上げて大切に育てる予定だったが、女好きの美容師に妊娠させられ、あっという間に沈没する。その美容師は、リサが妊娠中に浮気をして、すぐ離婚した。
「お前の脇が甘いから、美容師なんかに持っていかれるんだ」
 と、ドールキッズの社長、春本に厳しく叱責されたことが、退職するきっかけだった。
 ドールキッズ社も立ち上げたばかり。社長の春本も、まだ三十過ぎで、尖っていた。
 ここ、バンコクで狩田が自分を探し出すのは難しいことではなかった。なぜなら、自分が過去、泊まった安ホテルや、溜まり場を探せばよかったからだ。
 三十年も前のことだが、好みは変わっていないはず、というか、同じはずだ。
 狩田は、スクンビット通りをひととおり探し終えると、パッポン通りに足を伸ばした。
 パッポン通りにあるたこ焼き屋に、よく来ていたからだ。
 深夜のパッポン通りは、年末のアメ横と、夜の新宿歌舞伎町を足したような賑やかさと猥雑さだ。殿方の楽園、誘惑と喧騒の坩堝。
 世界中のスケベ男たちが、鼻の下を伸ばし、目をギラギラさせながら、この街に集まってくる。
 ぶらぶら歩く男を、ミニスカートの女たちや、ポン引きがたらしこもうとしている。
 たこ焼き屋はそんな通りから少し引っ込んだ路地裏にあった。
 店主は、不愛想なタイ人のおばさんで、日本語は全く話せないはずだが、少し違った。
 若いタイ人のお姐さんが焼いている。そんなお姉さんは過去、見たことがない。
 いつ来ても、タイ人のおばさんが、ふて腐れながら焼いていたのに……。