ドローンレーサー

 俺はチェッカーフラッグのレーザーカーテンを下の方で通過した瞬間、地面に激しく激突した。ヘルメットの中が瞬間的に白いガスで充満し、最後に見たのは無数のエアボールが飛び出してくるところだった。
 
 気がつくと俺は夜の樹海で仰向けに倒れていた。
 木々を通過した月の光が、まだら模様となってそこら辺を照らしている。
「俺は死んだのだろうか? ドローンレースやポーラたちのことは夢だったのだろうか?」
 話し声が聞こえると思ったら、懐中電灯を持ったポーラが、俺のことを探している。
 レイワや、ヘドロ、カンちゃんもベティも一緒だ。ワンチャンもいる。
 みんなが俺のことを探して、俺の名前を叫んでいるが声は聞こえない。
 ワンチャンは怖がってポーラの腰に抱きついて泣いている。
「俺はここだっ! ここにいる! 助けてくれっ! 死にたくないっ! 助けてくれ!」
 叫んでも叫んでも、聞こえないのだろうか? 
 そのうち皆んな、樹海の闇に消えて行った。
 俺の体は動かない。そばにはミイラや白骨肢体が転がっている。
「ああ、もうだめだ……俺もそのうちミイラになってしまうのかな……もう終わりかな……ポーラ……レイワ……助けてくれ……」

 現在  タイ バンコク  

「コップンカッ~」「サワディーカ~」「サバーイカ~」
「しゃっちょさん、しゃっちょさん、マッサージ、マッサージ、セクシーマッサージ」
 大渋滞の中、三輪タクシー「ツクツク」が、クラクションを鳴りっぱなしにして、車の隙間をぬってゆく。耳をつんざくような喧騒。夜なのに、ものすごい暑さと湿気。
 路地裏には生ゴミが散乱し、大きなネズミやゴキブリが走り回っている。
 太もも露わなホットパンツや、ミニスカート姿の街娼たちが客引きをしている。
 おそらくその半数はおカマちゃんだろう。本物の女性より美しいから見分けがつかない。
 屋台の物売りは、歩道にまで溢れかえり、まともに歩くのさえ難しい。
 頭上では高架鉄道BTSが轟音を上げて通過してゆく。
 ここは、タイ、スクンビット通り。タイの首都、バンコク一の歓楽街。
 狩田はそこで自分を探していた。ピンク色の、半袖Yシャツを着て汗をかいている。
 若者がよくやる、やりたいことを見つける自分探しではなく、本物の自分探しだ。