ドローンレーサー

 先頭はホンダマのハチドリ。二位は、ポルテのオクト。三位が「豚の鼻の穴」デザインのムベムべ、MBMB633ALPINA。四位がまたポルテコレラRS。
 ポルテのパイロットは、双子の美人姉妹。
 二位と四位なんて、爺さんが「難敵だ」と言うはずだ。
 俺は五位だったが、プライベートワークスチームでは俺が一位。
 レースはこれで終わりじゃない。このコースを二十周する。まだ始まったばかり。
 心配した七周目と、十四週目のバッテリー交換だが、この二度で大きく順位を落とした。
 ピットに飛び込むと、ボディ下部に魚雷を抱え込むようにしたバッテリーを、どれだけ手早く交換するかがレースの鍵となる。問題なのがバッテリー交換スピードのほか、モーターの温度上昇を抑えなくてはいけないことだ。 
 バッテリー交換の際、電力供給が途絶えるので、プロペラが回転を止める。
 すると、モーター温度が急上昇する。十数秒の間だが、温度上昇はモーターコアやベアリングに致命的なダメージを与えてしまう。ブラシレスモーターは高熱にめっぽう弱い。
 俺たちのチームのクルーは、兵隊のように鍛え上げられたワークスチームとは違い、臨時で雇った、御殿場の農家のじいさんばあさんだった。ジェロニモがボディ下部にもぐりこんでバッテリー交換する間、亀爺さんが怒鳴って指示をするものの、あたふたして、モーターをスポットクーラーで冷やすのをもたつく。
 せっかく順位を上げても、ピット作業で順位が下がる繰り返しだった。
 ついに、最終の周回の時には、コックピット内のモーター温度を表すサーモメーターがイエローゾーンに飛び込んだ。じわじわとレッドゾーンに針が近づく。
「頼むっ! もってくれっ!」
 先頭はホンダマのハチドリ。二位と三位にポルテコレラRS。俺は四番手だった。
 すべての機体が団子状態。コンマ数秒の差。
 モーターがレッドゾーンに入るとプロペラ回転が急激に落ちてしまう。
「頼むっ! このまま最後までもってくれっ!」
 先頭集団が団子状態で縦型オーバルコースに突入した。
 デッドヒート。
 四周目のフリップターンをハチドリがした瞬間、少しバランスを崩す。
 その隙をついてポルテの二機が左右から挟み込むように躍り出た。