ドローンレーサー

 俺の機体とスズキンの間には十二機のドローンがしのぎを削っている。さっきのクラッシュで七機脱落したから、残りは俺のを含めて十五機。ということは、俺は今、十三位。 
 バックモニターを見ると、スラロームでてこずる、トヨタヨタのデカゴンと、スバルンバのオクト4×4が小さく映っていた。
 次は上下のスラローム。十メートルおきに立った、二本のポールとポールの間に張られた、ロープを上下にかいくぐっていく。ハードル競争のような感じで、飛び越えるのは簡単だが、下をくぐる方が難しい。
 ドローンは上昇したり、平行移動するのは得意だが、下降するのは、その構造上、苦手なのだ。プロペラの回転をゆるめ、自由落下に任せるしかない。
 落下スピードが上がりすぎると、急激にプロペラを回転させてブレーキをかけても間に合わず地面に激突する。機体が重いドローンは落下速度が軽い機体と同じなのに、強力なブレーキングのプロペラ風圧が必要なので圧倒的に不利。
 重いものも軽いものも、落下速度は同じというニュートンの法則だ。
 ここでもスズキン・モスキートの二機がリードした。
 しかし、次のバックストレートは違った。
 最高速が重要なポイントとなるこの長い直線では、トヨタヨタのデカゴンがみるみるうちに順位を上げる。トータルバランスに優れたホンダマは常に上位だ。そのホンダマがスズキンの二機をかわした。じわじわとトヨタヨタのデカゴンが猛追する。
 俺もティルトローターの右ペダルを床も抜けそうなほど踏み込み、次に可変翼の左ペダルを思いっきり踏み込んだ。どんどん加速する。スズキンが目の前だ。と思った瞬間、スズキンの一機が木の葉のように舞い踊って後方に流れていった。
 スズキン・モスキートの前に出たホンダマが乱気流を起こしたのだ。こうなると機体重量の軽いスズキンは弱い。風にあおられた蚊のようになり、あっという間に順位を下げ、メインストリームから離れて飛行を続けるのがバックモニターに映った。
 スズキンにぶつかりそうになって、驚いた俺がスロットルを弱めた瞬間、数機が俺を追い越して行く。
 以前トップを飛ぶのは、もう一機のスズキン。残り全てのドローンがそれを猛追する。
 まるで、すばしっこいウサギを追いかけ回す、猛獣の群れ。
 長いバックストレートが終わると、今度は、はしご状スラローム。