他にも、シルキースムーズと呼ばれる、高回転なわりに振動のほとんどでない「豚の鼻の穴」デザインのムベムベ、MBMB633ALPINA。ボディは、逆スラントノーズで空気抵抗をボディ下部に流し込むデザインだ。もちろん六発のヘキサコプター。
 それに加え、様々なワークスチームが、色々なデザインの個性的なドローンを投入しており、その数は全部で二十四機。
 俺たち、「TURTLE DRONE MOTOS」のモンスタードローンは、ここ最近、俺が犯した接触事故で、つぎはぎだらけ。亀爺さんが臨時で雇ったピットクルー五人も、近所の農家のじいさんやばあさんで、「TURTLE DRONE MOTORS」と描かれたつなぎは揃いだが、日よけのほっかむりをしている腰の曲がりかけたばあさんもいる。
 爺さんはカブーの赤い帽子。ジェロニモのつなぎは油汚れが付いたまま。
 俺のつなぎはさすがに耐熱性の合成繊維だったが、俺たち全員の印象といえば、どっからどう見ても、JAが主催する格安航空の団体旅行者だった。
 各チームのドローンを載せたトレーラーが入場するたびに、スタンドから大歓声が聞こえるが、俺たちが入場した時には大笑いがどよめいた。
 場内アナウンスが鳴り響く。
「チーム、タートルドローンレーシングスポーツの入場ですっ! 翼を生やした亀のマーク。ヘキサ、デュアルペラ、ティルトモーター、その上、可変翼ですっ! 見かけはカメだが中身はまさしくモンスター! パイロットは、つい先日、日本新記録をマークした、星野っ、スバルぅ~!」
 十八万人で埋め尽くされたスタンドが、地響きのような割れんばかりの大歓声に包まれた。
 色とりどりのハイレグ水着のドローンクイーンや、ドローンボーイたちがタスキをかけて立っている。タスキには「YUASAYA」や「DENSOKO」など、バッテリーや、モーター部品の会社名が書かれている。
 ブーメランパンツを履き、ヘソ出しタンクトップのドローンボーイというのは、絶世の美男子たちで、女性レーサーから「トロフィー・ボーイ」と呼ばれていた。
 人気女性レーサーは、そのドローンボーイを、夜になるとホテルの自室に呼び込んで、おもちゃにしていた。男子も女子も、だれもがレーサーに憧れ、なれない者はせめて、ドローンボーイかドローンクイーンになりたがる。