総重量を軽くして有利にするため、競走馬に乗るジョッキーのように、パイロットは二人とも小柄な女性だった。合成繊維で出来た、体にぴったりフィットするレーシングスーツを着ている。小柄だから幼く見えるが、胸は大きく、その一人が小脇に抱えたヘルメットには、「AKIKO」と書かれていた。俺より四、五歳くらい、年上だろう。
 爺さんが「難敵」と言っていた、黒いレーシングスーツを着た双子の姉妹がいた。
 二機のドローンを持ち込んでいるが、「PORTE」社製シルバーボディの「PORTE CORELA RS」ポルテコレラRS。八発のオクトコプターだ。
 ポルテの市販用ドローンは、ナンパドロと呼ばれていて、ギラギラした中年男や、広告代理店のスケコマシに圧倒的人気だ。
 銀座や六本木など街中では、見せびらかすため、低空をゆっくりと飛ばす。
 いざとなったら、ものすごい電圧を瞬間的に高めるスーパーチャージャー搭載だ。
 普段は社会的地位もあり、おとなしくしているが「ベッドの上では、やるときゃやるぜ!」と暗黙に主張する、オイリッシュなおじさん向けの「下心あれば水心」ドローン。
 購入者に、もれなくバイアグラ一年分をプレゼントするディーラーの販促キャンペーンが賛否を呼んだ。旦那がこれを買ったら、奥様方は注意しなくてはいけない。
 若いOLがこれに乗っているおじさんからデートに誘われたらひとたまりもないからだ。
 ボディの前方左右に、カエルの目のようなLEDライトの出っ張りがある。
 車時代のポルテ伝統デザインをドローンにまで踏襲しているというわけだが、どう見ても空気抵抗が増すように思える。
 双子の姉妹は目も覚めるような美女だったが、気が強そうで少し意地悪そうだ。黒いレーシングスーツの上、ヘルメットまでも黒いので、悪女に見える。
 穴馬と言われているのがスバルンバ。スバルンバは元々、日本の航空機メーカーだったが、昭和の大戦で負けたことにより飛行機を作れなくなった。自動車メーカーとして大手の後塵を拝しながらやっていたが、ドローンの登場により、空への野望を復活させた。
 投入する機体は4×4。小型プロペラが右に四発、左に四発。合計八発のオクトコプターだが、メーカーは4バイ4と呼称している。おそらくこれも車時代の名残だろう。