スカートがめくれ上がるのを喜んで歓声をあげていた客たちも、次第に目もあけていられないほどになる。
 屋台が吹き飛ばされそうなほどの風とともに、空から深紅のドローンが降りてきた。
 着陸するとともにプロペラが回転を下げ、風が弱まる。
 卵を横にした形のボディ。イタリアンレッド。
 機体ナンバーの上部に、翼が生えた跳ね馬「ペガサス」のエンブレムと「G」の文字。
「G Forrari」。
 これは世界最大のAI企業グールルとホォラーリが共同開発した三人乗りのスーパースポーツドローンだ。 
 ガルウィングのドアがゆっくり跳ね上がると、中から高級そうな皮靴を履いた小さめの足が出て来た。イタリア製サルマーニのソフトスーツを着た小柄な中年男だった。
 ピンク色のYシャツを着てノーネクタイ。いかにも遊び人という格好。
 男はドローンのプロペラの下、少し猫背気味で、もみ手をしながら近寄って来た。
「いやー、どうもどうも、おつかれさん。元気? ポーラちゃん、あいかわらずおっきなオッパイも、元気かな~?」男は屋台の女将に話しかけた。
「なんだ、カルちゃんじゃないの、どーしたの? そんなドローンに乗って」
 女将がカルちゃんと呼ぶこの中年男の名前は、狩田淳(カルタアツシ)。
 芸能界名うてのスカウトマンだ。
 たこ焼き屋の女将ポーラが、男女混合のプロサッカー界から、モデルの道へと転向したのは、この男の誘いからだった。
 モデルを経て芸能界へ進む頃、バーニーズ事務所に所属する金髪の遊び人に騙され、道を踏み外したポーラは、狩田に対して頭が上がらない。
 ポーラは美人だが、そばかすが多く、右目の下に五個、特徴的なホクロがある。
 五個のホクロを線で結ぶと、「M」の形をしていた。
「いやー、ポーラちゃん、ひさしぶり、聞いたよ、聞いてるよ~」
「はあ? なに? 私はもう無理、迷惑かけたし」
「迷惑かけたなんて水臭いこと言わないでよ~」
 そこはかとない小物感が漂う狩田は、見かけは軽いがスカウトにかけては天才的に鼻が効く。軽薄そうだが、優しくて性格がいいのが、ポーラたち、過去にスカウトした女性たちみんなに好かれていた。スカウトの成功率が高いのは、その安心感と腰の低さだろう。
 今日の狩田の目当てはポーラではなく、ポーラのたこ焼き屋で働く美少女たちだった。