「お前、最近ぼんやりしている。気持ち、ここにない。お前、毎晩樹海に何しに行ってる?」
 俺は適当に誤魔化し続けていた。
 
 あっという間に、二週間が過ぎ、「日本ドローングランプリ」の日になった。
 場所は「鈴鹿スカイサーキット」。観客は、超満員の十八万人。
 ホンダマジェット開発部隊から派生したドローンチーム、HDDR「ホンダマドローンレーシング」が、下馬評では優勝の大本命だった。
 さすがにお膝元の鈴鹿だけあって、メインスタンドは「HONDAMA DRONE RACING」と書かれた鮮やかなトリコロールカラーのTシャツを着た観衆で埋め尽くされている。
 パイロットが乗り込むボディは、通常、卵型が多いのに、ホンダマは先の尖った鳥の体のような型を採用していた。
 初期型のホンダマジェットと似ていることから「ハチドリ」と呼ばれている。
 高回転モーターの割に低消費電力で航続距離が長いのは、はるか昔のスポーツカー、「ホンダマスーパーNSX」時代からの、ホンダマのお家芸といえた。
 トヨタヨタはTDR「TOYOTAYOTA DAZOO RACING」のセンチュリー21。
 IT技術の進んだソフトマップグループと提携している。
 機体の屋根には、鳳凰のマスコット。市販の大型ドローンを、レース用に軽量化し、チューンナップした機体を使っている。レース用としては、かなりでかい。
 自動運転で陸の覇者となったトヨタヨタだが、空の世界、ドローンでは出遅れていた。
 この日本グランプリを制し、一気に世界グランプリに打って出ようと息巻いている。
 機体は、ドローンには珍しい五発プロペラの「ペンタゴンタイプ」。
 しかし、ただのペンタではない。それぞれのプロペラが逆回転の二枚合わせ、デュアルペラを採用しているから、十発の「デカゴン」なのだ。
 機体重量が重く、消費電力が大きいのが欠点だが、最高スピードは図抜けていた。五番目のプロペラの後方に、飛行機のような垂直尾翼がついていて、鈍い旋回性能を補う。
 他にも、旋回性能重視型の超小型ドローン、「スズキン・モスキート」が二台。
 亀爺さんの軽ドロは、このスズキン社製だ。典型的な四発のクワッドコプターで、小型軽量で非常にシンプルな作りだが、故障が少なく、あらゆる面で総合バランスがとれた、優れたドローンだった。