無口なジェロニモは何も言わず飯を食っていた。ジェロニモもそうだが、爺さんも、過去のことにはまったくこだわらなかった。俺のことも、あれこれ聞かなかった。
おそらく、長いこと自殺志願者を相手にしていたからだろう。
そんなことはお互い、どうでもいいことだった。
「昨夜はクロケンの孫娘が完封したんじゃ! すごいのう、今年、広島カブーは優勝するかもしれんのう」
などと、爺さんは、いつものように関係ないことをひとりでしゃべっていた。
それより俺には気になることがあった。もちろんポーラたちのことだ。
昼間、ドローンの飛行練習を繰り返し、爺さんとジェロニモは、夜、工場で、モンスタードローンの更なるチューンアップを行う。
俺は工場の電動カブを借りて、毎晩、樹海へと通った。
樹海へ行くと言うと、爺さんは当初驚いていたが、俺はそこで、マイクロドローンを飛ばして、操縦練習をすると言って誤魔化した。
最初に行った晩、ちゃんと帰ってくると、あくる日から爺さんは何も聞かなくなった。
毎晩、樹海からちゃんと帰ってくるには、訳があった。
実は、向こうの世界に戻れなかったのだ。
まったく同じ樹海のあの場所で、同じようにランディングパットを切り裂いたループを、あの時と同じ木の幹からロープでぶら下げて、マイクロドローンをくぐらせても、あっちの世界には戻れなくなったのだ。
正直言って、俺は焦った。
元々、親父への復讐で死のうと思ったのだから実家のことなどどうでもいい。だけど、ポーラたちのことで頭がだんだん、いっぱいになってきて、ドローンの練習に身が入らなくなっていった。
「ばかもん! 何をやっとるんじゃ! 死にたいのか!」
無線を通して爺さんの声が響く。
練習コースに設けられた、レーザーループに機体が接触するたび、怒鳴り声がする。
「まずい、集中集中」と、自分に言い聞かせる。
レーザーループだから接触しても機体にダメージはない。しかし、本番のレースではレーザーループだけではなく、本物の輪っかもあるのだ。
レーザーループに触れただけなら減点で済むが、本物の輪っかに当たると、下手すると機体が壊れ、墜落する。
練習が終わって、ピットに戻るたびに、爺さんから大説教をくらう。
ある日、ジェロニモが言った。
おそらく、長いこと自殺志願者を相手にしていたからだろう。
そんなことはお互い、どうでもいいことだった。
「昨夜はクロケンの孫娘が完封したんじゃ! すごいのう、今年、広島カブーは優勝するかもしれんのう」
などと、爺さんは、いつものように関係ないことをひとりでしゃべっていた。
それより俺には気になることがあった。もちろんポーラたちのことだ。
昼間、ドローンの飛行練習を繰り返し、爺さんとジェロニモは、夜、工場で、モンスタードローンの更なるチューンアップを行う。
俺は工場の電動カブを借りて、毎晩、樹海へと通った。
樹海へ行くと言うと、爺さんは当初驚いていたが、俺はそこで、マイクロドローンを飛ばして、操縦練習をすると言って誤魔化した。
最初に行った晩、ちゃんと帰ってくると、あくる日から爺さんは何も聞かなくなった。
毎晩、樹海からちゃんと帰ってくるには、訳があった。
実は、向こうの世界に戻れなかったのだ。
まったく同じ樹海のあの場所で、同じようにランディングパットを切り裂いたループを、あの時と同じ木の幹からロープでぶら下げて、マイクロドローンをくぐらせても、あっちの世界には戻れなくなったのだ。
正直言って、俺は焦った。
元々、親父への復讐で死のうと思ったのだから実家のことなどどうでもいい。だけど、ポーラたちのことで頭がだんだん、いっぱいになってきて、ドローンの練習に身が入らなくなっていった。
「ばかもん! 何をやっとるんじゃ! 死にたいのか!」
無線を通して爺さんの声が響く。
練習コースに設けられた、レーザーループに機体が接触するたび、怒鳴り声がする。
「まずい、集中集中」と、自分に言い聞かせる。
レーザーループだから接触しても機体にダメージはない。しかし、本番のレースではレーザーループだけではなく、本物の輪っかもあるのだ。
レーザーループに触れただけなら減点で済むが、本物の輪っかに当たると、下手すると機体が壊れ、墜落する。
練習が終わって、ピットに戻るたびに、爺さんから大説教をくらう。
ある日、ジェロニモが言った。
