公式タイムで日本最高新記録を出したということは、自動的に「日本ドローングランプリ」への出場権を獲得したことを意味する。巨大なドローンメーカーがひしめくグランプリレースに、ちっぽけなワークスショップのドローンが参加できるということだ。
 夕方、「富士スピードスカイウェイ」からジェロニモが運転するトレーラーに、モンスタードローンを積んで戻ってくると、「TURTLE DRONE MOTORS」の前には取材陣が殺到していた。
 トレーラーから降りた俺は、カメラマンたちにもみくちゃにされ、工場の上空には、撮影用の小型ドローンが何十機も飛び交っている。レポーターたちはマイクを俺に押し付けコメントを求めてくる。
「十代のドローンレーサーなんて前代未聞です! しかも日本新記録ですっ! ひとこと、感想をおねがいしますっ!」美人のレポーターが金切り声をあげる。
「世界新記録にあとコンマ数秒ですが、いかがですかっ! 世界チャンピオンになる自信はありますかっ!」
「あなたはいったい、何者なんですかっ!」
 爺さんもジェロニモも、もみくちゃにされている。
 トレーラーの荷台によじ登ったカメラマンたちが、モンスタードローンを撮影している。
 取材陣を取り巻くように、ものすごい数の女の子たちが、金切り声をあげている。少年たちも、俺のことを撮影したいのか、スマホやカメラを向けている。
 何を聞かれても俺は多くを語らなかった。というか、うっかりしゃべると、つじつまが合わなくなってしまうからだ。
 工場に入り、扉を閉めても歓声は収まらず、窓からフラッシュのライトが瞬き続ける。
 俺は一日にして、時の人となったのだった。
 その晩、爺さんとジェロニモ、三人で夕飯を食いながら、堅い約束をした。
「日本ドローングランプリ」に、出場し、必ず優勝すると。

 あくる日、三人で昼飯を食っていた時、テレビのワイドショーで早速、俺のことを報道していた。
 テレビには、俺と亀爺さんとジェロニモが映っている。
 昨日、この工場前で撮った映像だ。
 女性リポーターは、俺が、「日本新記録を出したが、過去のレース履歴が全くなく、名前しか分からない謎だらけの少年である」ということを言った。その後、
「ここだけの話ですが、工場に勤務する入れ墨の男は、殺人罪で服役した過去があるようです」と小声で言って、眉をひそめた。