「あんたでしょ! ね、あんたなの! それともあんた! 私の靴の中にオイルを垂らしたのは、マスクを取って、顔をみせなさいよっ!」
 両手を広げて制止するポーラ越しに怒鳴りちらす。
 マスクガールズたちはあっけにとられ、ベティと王はおろおろして遠巻きに見ている。
「あんたたち、こんなことして、ただですむと思ってんのっ! マスクを外せよっ!」
「カンちゃん、ねえ、あれ見て……」
 気の弱いベティが、さっき、韓が着替え、メイク直しをした机を指差した。
 そこには韓が食べていたピザの箱があり、隅からオリーブオイルが床に流れ落ちていた。
 その場所は、韓が自分の靴を並べていたところだった。
 取り乱していた韓がその場所まで行くと、「うわっ!」と声をあげ、泣き出した。
「……うっ……うっ……うっ……」
 泣きながら嗚咽を漏らす韓の背中を、
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ、カンちゃん、だいじょうぶだよ……」
 ベティは、そう言いながら優しく背中をさすっていた。
 
 未来  鈴鹿スカイサーキット  

「TURTLE DRONE MOTORS」というのは亀田という爺さんの名前、亀田の亀を英語の「TURTLE」にしたものだった。
 モンスタードローンのボディには、翼が生えた亀のマークが描いてある。
 俺は、生まれて初めて乗ったそのモンスタードローンで、記録を次々に塗り替えた。
 富士の裾野に設けられたドローン飛行練習場でのアマチュア大会でのことだが。
 要するに草レースでのことだ。
 当初、戸惑った右足と左足のフットペダルだが、慣れてしまえば簡単だった。
 右がプロペラのティルト角度、左は可変翼の調整。すなわち右も左もアクセルということ。両方のペダルを同時に床まで踏み込むと、可変翼が瞬間的に広がり、ティルトが百八十度逆回転する急ブレーキということ。着地する寸前の鳥と同じ状態になる。
 それに慣れてしまえば、アマチュア大会なんて、いつもぶっちぎりの優勝だった。
 競争相手のドローンは、たいてい、飛行機と同じハンドルタイプの操縦桿だった。
 これは「エアカー」とも呼ばれ、車あがりのドローンメーカーが多く採用しており、ハンドルを前に押し込むと下降、引き上げると上昇する。左右は、車と同じように回すだけ。