昭和にはアンルイスやリンリンランラン。ゴールデンハーフや南沙織。アグネスチャンもいたし、アグネスラムもいた。少子化で日本人の男の子たちはどんどん減るが、外人は増えている。さらに昭和のおっさんが、定年退職し、往年のアイドルに夢中になったように、暇つぶしにまた、来てくれるかもしれない。
 おニャー子クラブから始まった過去のアイドルの歴史を、遠い過去までさかのぼり、徹底的に研究していた社長の春本は、そう踏んでいた。
 新興の芸能プロダクションが頭角を現わすためには、なりふり構わずやる必要があった。
 春本はぎりぎり昭和生まれの男。自分自身も両親と生き別れて暮らした苦労人。
 孤児と聞いて黙って放って置けるような性格ではなく、彼女たちを、なんとかしてやりたいと思っていた。
 本番直前。
 衣装のボタンが切れて無くなったと、感情の起伏が激しい韓が、ナーバスになって怒り飛ばしている。八つ当たりされた王が泣き出しそうになった。
「何やってんのよ! 今泣いたらメークがだめになるでしょ! しっかりしてよ!」
 と、リーダーのレイワ。
「大丈夫ぅ? ワンちゃん」
 と、天然気味で優しい性格のベティが覗き込む。
 ヘドロはダンスのウォーミングアップなのか、スクワットをしている。
 ポーラはステージの袖で、フロアディレクターからの指示を待っている。
「大丈夫よ、落ち着いて頑張って! 私たちも応援するから」
 と、控え室が同部屋のマスクガールズたちも、ピーチバレーズのメンバーは、韓以外、誰一人緊張していないのに、エールを贈ってくれる。
「ありがとう、みんな、本当にありがとう! がんばるね」
 と、レイワが面倒くさそうにお礼を言う。
「はーい、ほんばんでーす!」
 フロアディレクターからの声が響く。
 ステージ袖に立つポーラのそばへとみんなが集まる。
 マスクガールズたち全員が並んで「落ち着いて頑張って!」と言って、ひとりひとり、五人全員の背中を叩いてくれた。わざとらしく肩をもみほぐしてくれる者もいる。
「ありがとう」レイワがマスクガールズのリーダーに義理で答える。
 だけど、韓だけはまだ怒っている。切れて無くなったボタンは、第二ボタンなので、胸の谷間が見えてしまいそうだからだ。しかし、もう間に合わない。
 MCの掛け声とともに、新曲「スターレット」の前奏が鳴り出す。
 ゴーサイン!