爺さんは、このレース用モンスタードローンの製作ばかり夢中になって、面倒な中古ドローンの修理の仕事を、拾ってきた若者達に押し付ける。だから、仕事の定着率が悪いのが悩みの種らしい。
「工場の離れにアパートがあるし、三食つきじゃ。どうじゃ、メカニックになって、わしと一緒に世界をめざさんか?」
 面白そうな話で釣って、汚れ仕事を押し付けようとする魂胆なのは、見え見えだった。
「肝心のレーサーはどうするんですか?」
 と、俺は訊いた。
「そのうちなんとかするけえの、ヒヒヒ」
 爺さんは、はぐらかす。
 畳部屋に戻ると、爺さんはにやにやしながら、部屋の隅に置かれた、大きなモニター画面を指差した。画面にはレーサードローンのスケルトン3D画像が映し出され、内部構造が手に取るように分かった。コックピットは、さっき見たモンスターマシーンと同じだ。
 爺さんが、ちゃぶ台の上にドカッと、コントロールパネルを置いた。エルロンとラダー、二本のスティックが突き出している。
「どうじゃ、ちょいと動かしてみるか? シュミレーターじゃ。テレビゲームと同じじゃ。このボタンはスタート。これがプロペラのティルト。これが可変翼のボタンじゃ。やってみるがええ、すぐ慣れるけえ……」
 俺がボタン操作に手間取り、もたもたしているうちにドローンは、飛び立った瞬間、ガレージに激突し炎上する。
「うわっ!」俺はのけぞった。
 モニターは4Kどころか16Kくらいだろう、ものすごい細密な画像で本物と見紛う。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ、心配せんでええ。はじめはみんなそうじゃけえの」
 爺さんがリセットボタンを押すと、大画面いっぱいに燃え広がった炎は一瞬で消えた。
 もう一度、今度は慎重に離陸させる。
「そうじゃ、その調子じゃ、なかなかやるじゃないか」
 完全に離陸すると、水平飛行に移った。
 シュミレーターは、未来都市の臨海部にあるドローンレース場のようだった。
 レース場のループを次々とくぐる。
 俺がオンラインゲームで世界チャンピオンになりかけたやつと似ている。
 縦長の楕円形ループは機体を一瞬、縦にしてくぐる。
「ほうっ!」と爺さんの声。
 急上昇して、「GOODBYEAR」と描かれた飛行船がぶら下げたループをタイミングよくくぐる。ループはくるくる回りながら、飛行船と共に横移動していた。