「ひぇ~」
 広部は「なぜだ?」という顔でポカンとしている。おそらく最新の服なのだろう。メイドカフェルックというらしい。おまけにカチューシャまであり、それには猫の耳が付いている。うさぎの耳のもあった。
 しぶしぶ全員がそれに着替えると、みんな指差しあって笑い転げる。ヘドロと韓は、笑いすぎてひっくり返りパンツ丸見えだ。褐色の肌をした長い手足のヘドロが、断末魔のゴキブリのように手足を上にむけたままヒクヒクしている。
 それでデビュー用宣材撮影をするというのだ。
 広部の運転するミニバンに乗せられ、地下のガレージを出て、渋谷へと向かった。
 自動運転でなく、狩田がハンドルを忙しそうにクルクル回すの見て、
「手動運転車ってカッコイイ!」と、ポーラは言った。
 メンバーは窓の外を見ているが、再開発された直後の渋谷の町並みは、三十年後の大阪の街と大差はないようで、あんまり驚いた様子はない。
 渋谷の坂を登りきったところに目指す撮影スタジオがあった。
 雑居ビルの地下にあるその撮影スタジオは、「アルヒ・ビビットスタジオ」という、ふざけた名前だった。
 ヘアメークを済ませると、メンバー全員でホリゾントの上で、歌って踊った。
 歌うといっても録音する訳ではなく、口パクでいいらしい。動画と写真の両方を撮るということで、動画撮影のダンスが終わると一旦休憩となる。
 カメラマンは五十過ぎのダサいおっさんだった。休憩中に、センターで踊っていたレイワに、「アンミラみたいで可愛いよ! よく似合うね!」と言っていた。レイワは、
「アンミラ? 誰ですかそれ?」と訊く。
 アンジョリなら往年のハリウッド大スターだ。懐かしの映画特集の時に観たことがある。
 ひとりずつの撮影の時には、そのカメラマンのおっさんは、あまりポーズをとるのが得意でない王に、
「ムーンコズミックパワーメイクアップ! ってな感じのポーズはどうよっ!」と言ったけど、王は完全に固まった。目が泳ぎ、視線は天井をさまよう。
 カメラマンのおっさんは指を人差し指と小指、それと親指の三本を立て、大きく足を開き、腕をクロスしている。王はいつものように長い髪をツインテールにしていた。
 アニメヲタのベティだけが、後ろでクスクス笑っている。
 ベティ以外のメンバー全員、黙り込んでしまった。