「なななな、なんと! 可変翼だ!」
 はやぶさが地上の獲物を襲う時、急降下する。その際、空気抵抗を減らすため翼を極力折りたたんでロケットのような格好になるあれだ!
 デュアルペラ六発、ヘキサ×2のドデカゴンタイプ十二発。ティルトローターの上に、可変翼。モーター回転は、KV値、二万六千rpm/V。
 高回転な割にコア部分の直径が大きく、トルクもでかい。
 まさに超弩級のモンスターマシーン。
 俺はその場で腰が抜けた。

 現在  東京 原宿  
 
「あたしもう嫌っ! 辞める! やめて未来に帰る」
 小学六年生の、王が泣き出した。
「今更戻っても、どうしようもないよ! また宅配をやりたいの? それとも、中ぼうになったら、ミニスカ履いて、たこ焼き焼きたいの? もうちょっと頑張ろうよ!」
 と、レイワがなだめ、説得する。
「デビューまであと一週間よ。それからでもいいじゃない。とりあえずやってみようよ」
「いったいどうしたの? ワンちゃん、何があったの?」
 ベティが、泣きじゃくる王に訊いた。
 どうやら別のアイドルグループ「マスクガールズ」に、みんなが見てないところでいじめられたようだ。
 マスクガールズは七人組の女子高生ダンスユニット。顔にはこだわらず、スタイルとダンスの上手さだけで結成されている。キレッキレで、少しセクシーな激しいダンスは、ライブをやると、コンスタントに三百人くらいは集客出来るらしい。
 ダンスレッスンスタジオは、ドールキッズ社に所属するメンバー全員の稽古場だ。
 だから、みんな朝起きると、ヨガマットを倉庫に片付け、綺麗に掃除しなくてはいけない。いつもはそんな雑用はスバルがやってくれていた。スバルが姿を消して一週間になる。「すぐ戻ってくるから心配しなくていいよ」
 と、ポーラは言うが、みんなの間には不安が広がり始めていた。
 疲れ切っているのに、スバルがいない分、自分たちで、炊事や雑用をやらなければいけなくなったのがメンバーのイライラに拍車をかけた。
 そんな時、王がマスクガールズのメンバーにいじめられたのだ。
 きっかけは些細なことだった。キレッキレのマスクガールズのダンスに見とれていた王は、休憩中、マスクを外したお多福みたいな顔を見て「ぷっ」と吹き出したからだ。
 お多福は「あんた新入りにくせになんか文句あんの?」と、王を小突いた。