「大丈夫じゃ、心配せんでええ。これでもメンテはちゃんとやっちょる。わしはドローンのメカニックじゃけえの」
 ドローンは前方をサーチライトで照らしながら、樹海の森をゆっくり垂直上昇した。
 プロペラが木の葉を巻き込み「ピシッ! ピシッ! ピシッ!」と音をたてる。
 約三十メートル上昇すると一気に視界が広がった。
 満月の明かりに照らされた一面の樹海の森が、富士の裾野にどこまでも広がっている。
 正面には、真っ黒な空の中、月光に照らされた青暗い富士山。
 ドローンは機体を傾けながらゆっくりと反転し、のんびりしたスピードで御殿場の街明かりに向かって水平飛行を始めた。俺は左手に見える東京方面のイルミネーションに目を奪われ、窓に顔を寄せた。一瞬、ドローンが左に大きく傾いたがすぐに、左側のプロペラが唸りをあげ、高速回転してバランスを取ろうとする。
「おっとっとっとっ、お行儀よく乗っとってくれよ、お兄ちゃん」
 生まれて初めて乗ったドローン。いつもはモニターの中だけで繰り広げられる光景が実際に目の前に広がっているのだ。
「これは魔法の絨毯ではないか!? 月明かりに照らされた御殿場の街をドローンに乗って空を飛んでいるのだ!」
 俺は夢でも見ているような気分だった。
 間もなく、爺さんと俺が乗ったドローンは空中で止まった。しばらくホバリングすると下降し始める。前方を照らしていたヘッドライトが下の方を向く。
 俺は窓に顔を寄せ、下の方を見た。ドローンが傾き、プロペラが高速回転してバランスを取ろうとする。下にはオレンジ色で大きく「H」と書かれたヘリポートがある。
「おっとっと、おとなしく乗っとっってくれよ。ポンコツじゃけえの」
 爺さんが言うと、俺たち二人を乗せたドローンは、ゆっくりと着陸した。
 爺さんに促され、ドローンを降りると、そこには安っぽいトタン張りの、車の修理工場のような建物があった。
 看板には「TURTLE DRONE MOTORS」と、大きく描かれている。
 文字の隣には、翼を生やした亀のマーク。
 ガレージの大きなシャッターの脇にある、勝手口の扉を開けると、スナップオンの赤い工具箱や色々な機械類が乱雑に置かれた奥に、畳の部屋があった。
 小さくて丸いちゃぶ台があり、その上には醤油瓶や箸立てが無造作に置かれ、古びた湯のみ茶碗が一つあった。