「よし未来だ!」
「おいっ! 早まるなっ! 落ち着けっ!」
 懐中電灯が俺のことを照らす。まぶしくて目が開けられない。目を細めて見ると、つなぎを着た爺さんが、樹海の森に立っていた。
「落ち着け、わしは警察でも、なんでもない。ただのドローン修理工じゃ」
「ん? ドローン修理工? なんだそれ?」
 俺は言われるまま、そのドローン修理工という言葉に惹かれ、爺さんの方へ歩いて行った。
 爺さんは、「TURTLE DRONE MOTORS」と胸に、翼を生やした亀のイラストと文字が書かれた緑色のつなぎで、髭面だった。
 広島カブーの赤い帽子を被っている。
「若いのに、一体どうしたんじゃ? 腹減っちょらんか? 家に来てメシでも食うか?」
 優しく語りかけてくる。おそらくNPO法人の自殺防止人なのだろう。現在の神奈川県にも居た。俺のことを自殺志願者だと勘違いしているようだ。
 俺のRAV4が置いてあるはずの少し奥の開けた場所には、マイクロドローンを何百倍にも大きくした、人が乗れるほどのドローンがあった。
 くすんだ緑色、コンバットグリーンのボディに「SUZUKIN」と描いてある、
 ロープを握りしめたままの俺は、目をむき、腰が抜けそうになった。
 令和元年ごろ、人が乗れるドローンが試作されたというニュースは耳にしていた。
 しかし、実物を見るのは、もちろん初めて。
「なんか、訳がありそうじゃの、とりあえずわしの家にこんか?」
 俺はドローンを見たまま何度もうなずいた。
 もちろんこのドローンに乗ってみたかったのだ。
 ドローンのドアは薄っぺらく、手動で開ける時、ヒンジが軋み音をたてる。前後に二人乗りで、まるでバイクにまたがるように乗ると、前席の爺さんがドアをパタンと閉じた。
「ポンコツの軽ドロじゃがの、まあ心配するな、ちゃんと飛ぶけえ」
 爺さんはそう言うと、目の前のヒビが入ったタッチパネルに手のひらを置き、
「自宅まで戻れ」と命令した。
「ジジジ、リョウカイシマシタ、ジジジジジジ」電子音声が聞こえると、四発のプロペラが回り出し、ボディが激しく揺れ出す。
 プロペラは回転速度を上げ、ジェット機のような高周波音が唸りを上げる。四発のプロペラ部分が少しもち上がると、ボディ全体が「ギシッギシッ」と、音をたて、ゆがんだ。
「うわっ!」俺はおもわず、後ろから爺さんの背中にしがみつく。