パーティションの向こうに消える時、もみ手をしていた。
 それから僕は、ドールキッズのレッスンスタジオで付き人として暮らすことになった。
 レッスンスタジオといっても、事務所と同じフロアをボードで間仕切ってフローリングにしただけの、学校の教室半分程度の狭いスペースだった。
 隅には衣装部屋と呼ばれる物置と給湯室がある。
「あんた、帰るなんて、なに寝言いってんの! 絶対そんなことさせないわ!」
 ポーラが僕の頭を軽くこづいた。
「そうよそうよ、あなたが居なくなったら私たち、どうすんの!」
「だめだめ、一緒にいてくんなきゃあ」
「そうよ、いざって時に、未来に戻れなくなっちゃうじゃないのよ!」
 そうだ、そうなんだ、僕のラジコンドローンとランディングパッドが、過去と未来へ移動するツールなんだった。
 狩田は、とりあえず広部のアパートに転がり込んだ。
 僕はというと、その日から、美少女五人と綺麗なお姉さん、合計七人で、ダンスレッスンスタジオに寝泊まりするという奇妙な共同生活が始まった。というか、軽い軟禁状態。

 毎日続く、ハードなダンスレッスンとボイストレーニング。
 ダンスの練習は、基本中の基本、左右に弾む「ツーステップ」。それが終わると、体にリズムやテンポを覚えさせる「16ビートのリズム取り」を叩き込まれる。
 でも、元々体育会系の彼女たちは楽々とこなしていく。
 全員、とりあえず事務所にあった、色違いのジャージを着ていた。
 高校一年生のレイワは赤。和風な顔つきそのままで、おにぎりが好物。
 中三のヘドロは青。プロバスケットの選手か、ダンサーになりたがっていたから、この状況を喜んでいる。黒人の血が流れているので、ヒップホップでも、ブレイクダンスでも、キレッキレだ。
 中二の韓は緑。笑ったり泣いたり怒ったり気性が激しいが、根は優しい。
 中一のベティはピンク。アニソンが大好きで、コスプレをして声優になるのが夢。
 小学六年生の王(ワン)は黄色。ラーメン好きで、まだ幼児体型。算数が得意。
 彼女たちにとって、二十七歳のポーラは、母親であり姉。みんなが姉妹みたいな関係。
 僕は今まで何度か家出をしたことがあった。もちろん親父のことでだ。しかしそれは全部プチ家出。すぐに戻った。親父に対する怒りより、将来への不安があったし、やはり、自分一人では生きていけなかったからだ。