狩田が未来から来たことを伏せて、適当に紹介したが、全員が孤児であるということに春本は食いついてきた。孤児という言葉を聞いた瞬間、鼻毛を押し込む指を止めたのだ。
 未来では、少子化を食い止めるため、政府は「産めよ殖やせよ」と、まるで戦時中のような号令を発した。妊娠した女性に対して、年齢にかかわらず出産助成金という名の、報奨金を与える。その結果、十代で子供を産んでは捨てる女たちが増え、孤児が激増した。
 一方、現代の東京、芸能事務所の悩みは、親が芸能活動に反対したり、あれこれ口出しをしてマネージャー面(ズラ)することだったから、孤児は逃げる可能性がなく、根性もあったから、春本は思案しはじめたのだ。
「あ、それから社長、このポーラにはマネージャーさせますから、なんなら熟女系にでも」
 狩田は、心の中で「まとめて六人分だ、しめしめ、……」とほくそ笑んだ。
 春本はしばらくの間、また鼻毛を押し込んでいたが、指を止めると、膝を叩いた。
「よし、わかった。とりあえず二ヶ月以内にデビューだ。曲はこれから作らせる。今日からさっそく、ボイストレーニングとダンスレッスンだ。グループ前は何にする?」
「そうすね、『ピーチバレーズ』でどうでしょう?」狩田は即答した。
 たまたま応接セットのデスクに、桃が置いてあったからだ。バレーは、バレーボールでもダンスのバレエでもなく、渋谷の谷という意味の英語。
「あいかわらず、カルいっすね!」広部が口をはさむ。
「ところで、その後ろで、ぼさっと立っている兄ちゃんはなんだ?」
「え? ぼ、ぼぼ、僕ですか? 僕は関係ないです、すぐ帰ります」と、僕は言った。
「ぎゃ~!」
「ええッ~!」
「いやだっ!」
「帰らせなんてさせないからね」
 レイワ、ヘドロ、韓と、ポーラが一斉に口を開く。
「ずいぶんモテるんだな。この兄ちゃんは」
「だめだ、だめだ、かえっちゃだめだよ。こいつには、付き人やらせますから。な、そうだろ?」と狩田が言うと、レイワ、ヘドロ、韓が、何度も頷きながら、
「そうそう、そうだそうだ、それがいい、それがいい」と口々に言う。
「社長、こいつの分はサービスでいいですから」
 白髪がある狩田は、若い春本の背中を押して、パーティションで仕切られた社長コーナーへ連れて行く。春本の背中を押す狩田は、歩きながらニヤけている。