満月の黄色い月明かりが、赤く塗装された鉄の大鳥居を鮮やかに照らしている。
「やばいっ! こっちは未来世界なんだ。こんなところに置いてけぼりにされたらまずいっ! 待ってくれっ!」
 僕はループの中を覗き込んで叫んだ。
「あ、忘れてた」と言いながら、南参道を歩いていた全員が戻って来る。
 どやどやと戻って来たみんなが、僕がループをくぐるのを手伝ってくれようとして、狩田が手を伸ばしたところでハッとした。
 慌てて地面に落ちたマイクロドローンを拾ってポケットにしまい込む。ループを抜けると、元どおりの古びた檜の大鳥居がそびえ、ロープにぶら下げられたループがあった。
 満月の黄色い月明かりは、檜の大鳥居を古ぼけた焦げ茶色に照らしている。
 そこは、今とまったく変わらない、現在の明治神宮だった。

 結局、朝まで、竹下通りにある二十四時間営業のマクドナルホドで時間をつぶし、僕たちみんなが身を寄せたのは過去の狩田の職場、ドールキッズ社だった。設立して間もない小さな芸能プロダクションで、原宿の外れにある雑居ビルの七階にあった。
「カルさん! どーしちゃったんですかぁ? 竜宮城にでも行ってんですかぁ?」
「いやいや、いろいろあってね、いろいろとね、ま、また、よろしく頼むよ」
 狩田の一年後輩だったいうこの男、広部(ヒロべ)は、二十代半ばの若さだが、ちゃんとネクタイをしてスーツを着ている。狩田は三年ぶりに帰って来たということだが、狩田のあまりの老けぶりに驚いているのだった。そりゃそうだろう、三十年経過しているのだ。
 どうせ信じてはもらえないだろうと思ったのか、狩田は詳しく説明しなかった。
「旅先で不摂生をしていたら少し老けてしまった」と言って適当に誤魔化している。
 狩田は三年前頃、といっても、狩田にとっては三十年前頃ということになるのだが、リサという売れっ子の担当マネージャーをしていたらしい。リサが「できちゃった婚」したことを社長に叱責され、会社を辞めた。社長の春本は現在、三十半ばのようだ。
「狩田、たった三年で、ずいぶん老け込んだなあ。何か大変なことでもあったのか? ところで誰だ? その子たちは」
 肘あてのある大きな革張りのソファに座った社長の春本は、鼻毛を押し込みながら、美少女たちを一瞥し、黒縁メガネ越しにポーラを見た。