その時、狩田の背広のポケットが、ウィーンという高周波音をたてて膨らんだ。
「???」
 狩田がポケットに手を入れると、僕のマイクロドローンを取り出した。
「ああ、これ、地面に落ちてたやつ。ループをくぐる前に拾っておいた」
 おそらく、残ったバッテリーが、走ってくる時にポケットの中で擦れ、静電気で僅かに復活したのだろう。よくあることだ。
 狩田は「ほらっ」と言いながら僕に投げよこした。
 プロペラが回転したままのマイクロドローンは、フリスビーみたいに、ふわふわと、宙を飛んでループをくぐり、僕の目の前に落ちた。
 その瞬間、僕の目の前が真っ赤になった。檜で出来た鳥居の御柱が赤になったのだ。
「えっ!」
「きゃっ!」
 鳥居の下には、小柄な二人の美少女が立っていた。側には鳥居からぶら下げたループ。
 二人の美少女は驚いた顔で僕を見つめる。
 ループの向こうにいるはずの、ポーラや狩田たち全員が消えている。
 呆然としていた次の瞬間、ループから、ポーラ、レイワ、ヘドロ、韓、四人の顔が覗いた。
「あっ! ベティ、ワンちゃん!」
「あっ! ポーラ姉さんっ! レイワっ、ヘドロっ、カンちゃんっ!」
 ループの、あっちとこっち、六人の十二本の腕が絡まりあり、喜んでいる。
「早く早くっ! こっちにおいでっ!」
 ベティと王はループの向こう側に引っ張り込まれようとしたが、ループが高くてなかなかくぐれない。
「あんた、また、なにぼさっとしてんの! はやく手伝って!」
 ループから顔を突き出したポーラが怒鳴る。
 僕は小柄な美少女二人を、順番に抱っこして、ループをくぐる手助けをした。残念ながらミニスカートではない。二人とも、ぴったりしたTシャツとジーンズだった。
 僕がループを覗くと、向こうでは五人の美少女とポーラたちが抱き合って喜んでいる。レイワ、ヘドロ、韓は大泣きしているが、後から合流したベティと、ワンちゃんという美少女は、訳がわからず、不思議そうな顔だが、とりあえず調子を合わせて喜んでいる。
 よかった。ともかくよかった。
 五人の美少女とポーラたちが抱き合ったまま、向こうの方へと歩き出す。狩田も後を追う。ほっとした僕も、歩きだした。しかし、ループの外から見える世界には誰もいない。ただ、鉄の大鳥居がそびえるだけだ。