「こんな化石みたいなスマホ見たことがない!」と皆んなが口々に言って驚いている。
「一体、どんだけ古いケータイ使ってんだよ? このRAV4も、確か五十年以上前のガソリン車だよな? クラシックカーが好きなのか?」
 と、おっさんが僕に訊く。
「え? 車は古いけど、これは、この前買ったばかりの最新型5Gのスマホですけど……」
「は? 最新型? 5G? いったい今、いつなんだ?」
「え? 今は二〇二〇年ですけど……」
「ええっ! 嘘でしょ!」全員一斉に叫んだ。
 彼女たちは、後部座席から手を伸ばし、僕のスマホをおっさんから取り上げ、いじりだすと、待ち受け画面のカレンダーやネットニュースを覗き込み、大騒ぎをし始めた。
 なんでも、彼女たちは三十年先の未来から、過去の世界にタイムスリップしたのではないかと騒いでいる。
 僕の方こそびっくりだ!
 彼女たちは大混乱して動揺している。
「空にはドローンは飛んでいないし、走っている車も全て旧式で、高速道路なのに人が運転している!」
 と、並んで走っている車のおばちゃんを指差して、おろおろし始めた。
「この車だって、高速道路を人が運転しちゃだめでしょ、危ないじゃん! 大丈夫なのっ?」
 と、怒り口調で言う。
 なんでも未来では、高速道路は全ての車が自動運転らしい。
 周りの状況や、僕が車を運転しているのを目の当たりにすると、過去にタイムスリップしたことを認めざるを得ないということだったが、しばらくの間全員、パニック状態。
 僕は、「これはテレビ番組の収録か何かに違いない。おそらく彼女たちは、駆け出しの女優かモデルで、助手席のおっさんは、芸人さんかマネージャーなのだろう」と思った。
 最近は、女優でも雑誌モデルでも、どんどんお笑いバラエティー番組に出演している。
 しかし、五人は喧々諤々、真剣に話し込んでいる。
 僕はしばらくの間、黙って聞いていた。
 児童養護施設の彼女たちには家族はいないという。未来の児童養護施設は、常に定員オーバー状態で、誰が家出をしようが行方不明になろうが、知らん顔らしい。
 綺麗なお姉さんも同じく、家族も恋人もいない、完全にフリーの状態。何より、
「元の世界に帰るため、あの地獄のような樹海に戻るのは絶対に嫌、死んでも嫌だ!」
 と言った。