東洋の島国日本、特に関西地方はアナザープラネット(別の惑星)と呼ばれた。野良着の黒人や、浴衣に刀をさした白人女性、芸者の格好をしているオカマの白人男性など大勢いるので、鎖国時代の出島にタイムスリップしたみたいだ。道路には、前後二体の人型ロボットが担ぐ豪勢な駕籠や、ロボット人力車も走っている。
「エイホッ、エイホッ、エイホッ、エイホッ、エイホッ……」
 と、捩り鉢巻きにハッピを着たロボットは、電子音声を発生しながら走る。
 たこ焼き屋台に行列を成す客たちは、屋台の正面から裏へと回るので、上空から見ると、衛星写真の台風みたいに、屋台を中心に行列がとぐろを巻いている。屋台なので裏へ回ると、少し前かがみになったミニスカートの太ももが丸見えなのだ。
 ドローンタクシーが、屋台の真上を低空飛行で通過するたび、彼女たちのスカートがめくれ上がり、客たちはスマホを片手に大歓声を上げる。普通なら一パック、八個とか十個入りで売るのだが、この店の売りは、たこ焼き一個、単品売り。一個の単価を、かなり高く設定している。
 正直言ってぼったくりだ。ぼったくりとわかっていても、客は殺到した。
「あらよっ!」
と、胸が大きく開いたフリルの付いたエプロン姿で、気の強い十六歳のレイワが、客の口に熱々のたこ焼きを放り込む。
「ふひゃあっ! あふい! ふひゃひゃひゃ! ありふぁとうほぇぇまひたぁ!」
「ったく、気色のわりいヲタおやじが、もう一個欲しいの?」
「ふひゃあ、ほひいれす、ほひいれす、もういっふぉ、くらはいぃぃ」
「ほらっ! しっかり受け止めてっ!」
「ふひゃあっ!」
 放り投げたたこ焼きが客のメガネにあたり、崩れ出たタコの足が、客の鼻にへばりつく。
 客はのけぞって、悲鳴を上げながら屋台を離れていった。客は武田信玄の鎧兜姿だった。
 高校一年生のレイワは、和風美少女。いつもポニーテールにしているので、切れ長の目がよけいに強調されている。十六歳なのに胸は、はちきれそうに大きい。
 次の中国人団体客には、ピンク色のエプロンを着た十五歳、中三のヘドロが応対した。
「イイ、アル、サンッ、スー、ウー、リュー、チー、パー、チュー!」
 と言いながら、九人並んだ中国人男たちの口に、次から次へと、蛸つので突き刺したたこ焼きを一個ずつ、焼き台越しに、リズミカルに放り込んでゆく。