ドローンレーサー

 この海峡をメインストレートとして、こっち側、新市街の中環(セントラル)が、スタートポイントだ。
 そして東に向かって飛び、鯉魚門燈塔のターニングポイントで折り返すと、この海峡の反対側、旧市街地の観客で埋め尽くされた遊歩道上空を飛んで行く。
 旧市街地は、昨夜俺が泊まった九龍のペニスシュワや、インター・チンコネンタルホテルがある場所だ。
 そこを過ぎると、湾仔フェリーボート乗り場を通過して、地上百十八階建、高さ、四百八十四メートルの世界貿易センタービルにクリスマスツリーのようにかけられたロープをくぐる。
 何十本もかけられたロープは、機体を斜めにして螺旋状に上昇させながら、くぐっていかなくてはならない。
 次は、金色のツインタワーにハシゴ状にかけられたロープを垂直下降しながらスラロームする。
 より良い運気を求める施主が、風水を重んじ、無秩序に建設された香港のビル群は、派手な色や奇抜なデザインのジャングルのようだ。
 そのビル群のスラロームが無事にクリア出来たら、ビクトリア・ピークに駆け上がる。
 香港すべてが見渡せる、世界一有名な観光スポット。
 さらに上、その山の頂上に建つ通信用のアンテナを一周回って、青馬大橋を目指す。
 青馬大橋は香港国際空港から市街地側にくる、東京のレインボーブリッジのような巨大な吊橋。青色LEDでライトアップされ、その橋桁の欄干をくぐり抜けて戻ってくる。
 メインスタンド前、ビクトリア・ハーバー海峡の上空を、巨大な飛行船が輪っかをぶら下げているのを通り抜ける。急降下すると、海峡に浮かんだ揺れる船から、何本も高いマストを突き出しているスラロームコースを飛ぶ。
 メインストレートで、スピードが上がり過ぎるのを抑えるためのスラロームだが、逆に危険度が増す。死亡事故の発生率が極端に高い、命がけの市街地夜間レース。
『香港Dー1ナイトグランプリ』世界一の難コース。観衆は血に飢えている。
「レイワやポーラたちはみんな元気そうだ。なぜ時空を飛び越えて、ラインが繋がるのかは不思議だが、そんなことは今の俺にはどうでもいい。マイクロドローンも、あのランディングパッドを切り裂いたループも芦ノ湖に沈めた。もう過去には戻れない」
 レーザースクリーンのスターティングカーテンが、赤から黄色点滅に変わる。
 スタート十秒前。