ドローンレーサー

「さあー、次はいよいよぉ、ラストの曲! 私たちのぉ、新曲ですぅ!」
「うおぉぉぉぉぉぉ~」という、地鳴りのような歓声が起こり、ベッドが震える気がした。
「この曲わぁ、私たちがぁ、落ち込んだりぃ、悩んだりぃ、した時にぃ、作ってもらったきょくですぅ! みんなもぉ、この曲を聴いてぇ、元気になってねぇ!」
「さあー、マックスハイテンションでいきますよっ! 新曲、『いっぱいいっぱい』!」
 前奏と大歓声が入り混じり最高潮にボルテージが上がる。 
 と同時に冬花火大会の爆音が鳴り響く。
 ドーン ドドンドーン パーンパパンパーン……
 狩田はおもわずボリュームを下げ、シーツをかぶった。
 
 たこ焼き食べたら おなかいっぱい
 あなたと食べたら むねいっぱい 
 ピザパイじゃいやいや かんぱいもいらないわ 
 だってわたしたち 未成年だもん
 わたしたち いっぱい いっぱい
 オッパイいっぱい ちからいっぱい でもせいいっぱいなの
 オッパイいっぱい いっぱい いっぱい
 ハローオッパイ そしてグッバイ!

 激しいリズムと過激なダンス、ヘドロは連続五回バク転をした最後にバク宙を決めた。
 カメラがパンして会場を映し出すと、すべての観客がマサイを始めた。
「オッパイいっぱい、オッパイいっぱい、オッパイいっぱい、オッパイいっぱい……」
 そのコールに合わせて八万大観衆の連続ジャンプが続く。
 ドーン ドドンドーン パーンパパンパーン……花火大会クライマックスの爆音。
「オッパイいっぱい、オッパイいっぱい、オッパイいっぱい、オッパイいっぱい…………アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!……」
 シャワーを終えたジョセフィーヌが、シーツをかぶった狩田に覆いかぶさった。
「ちょっとぉ、なに見てんのぉ、エッチねぇ。でもげんきになったのねぇ、よかったわぁ~、あたしのおかげかしらぁ~、もう一度したいのぉ~、ね~え~ダ~リ~ン」
 狩田は慌ててスマホを枕の下に隠し、寝たふりをしたが手遅れだった。
 
 未来  香港 Dー1グランプリ  

 二度目の「テイク・ユア・マーク!」のアナウンスで、俺は、慌ててスターティング・グリッドについた。ビクトリア・ハーバーに浮かんだ三艘の船からレーザー光線が照射され、スターティングカーテンを作っている。