フトシも夢中で追いかける。太った小男はすぐに足がもつれ、転んだ。
「こらっ! そのピカチュウを見せろっ!」
フトシは怒鳴る。その騒ぎを聞きつけ、数人の警備員がわらわらと駆けつけた。
小さな男は、中学生くらいの少年だった。
黒縁メガネがずり落ち、泣き出した。ぬいぐるみを抱きしめたまま、がたがた震えている。
取り囲む警備員は、金属探知機をすり抜けたアイドルテロかと思って全員に緊張が走る。
もしかしたら、硫酸をぶちまけるアシッドアタックかもしれない。油断禁物だ。
全員が腰につけた警棒を握って身構え、老人の警備員は警笛を口にくわえる。
「やっばりだっ! ほらっ!」
フトシが無理やり取り上げたピカチュウの小さな足の裏には、ラインアドレスが書いてあった。ピカチュウに靴下を履かせているのを、フトシは不審に思ったのだ。
「こいつめ、ピカジュウが好きなベティ推すの、繋がり狙いだな」
警備員は、ほっとしたのか、あきれたのか、すぐ持ち場に戻って行った。
「繋がり厨」と呼ばれる、アイドルにプレゼントを渡すふりをして連絡先を教え、あわよくばアイドルと個人的に仲良くなろうとするヲタが大勢いた。
そんな厄介を、フトシは一人で捕まえたのだ。
こんな芸当は、アセコムやアルソープなど、プロの警備員でも出来ない。
「やっだぁ! 大手柄だぁ! ごれでオラの評価がエモるのは間違ぇね。もすかすだら春本さんはオラのごどを、臨時の契約から正規の契約に、いや、もすがすだら、ドールキッズの正社員にすでぐれるがもすれねぇ。やっだぁ!」
フトシは天にも昇る気持ちでピカチュウを高く掲げ、関係者ブースに走る。その後ろ姿は、大きなピカチュウが小さなピカチュウを片手に持って走っていくようだった。
ひとり残った老人の警備員がメガネを拾い、優しくその中学生の男の子を助け起こしていた。
現在 シンガポール マリーナベイ・サンズリホテル
狩田は精も根も尽き果て、うつぶせでベッドに横たわっていた。
マリーナベイ・サンズリホテルのスィートルーム。
遠くからシャワーを浴びる音が聞こえる。
狩田は、どうにか動かせる腕を伸ばして、サイドテーブルのスマホを手に取った。
さっき中断させられた、ピーチバレーズの実況生中継を見たかったのだ。
「こらっ! そのピカチュウを見せろっ!」
フトシは怒鳴る。その騒ぎを聞きつけ、数人の警備員がわらわらと駆けつけた。
小さな男は、中学生くらいの少年だった。
黒縁メガネがずり落ち、泣き出した。ぬいぐるみを抱きしめたまま、がたがた震えている。
取り囲む警備員は、金属探知機をすり抜けたアイドルテロかと思って全員に緊張が走る。
もしかしたら、硫酸をぶちまけるアシッドアタックかもしれない。油断禁物だ。
全員が腰につけた警棒を握って身構え、老人の警備員は警笛を口にくわえる。
「やっばりだっ! ほらっ!」
フトシが無理やり取り上げたピカチュウの小さな足の裏には、ラインアドレスが書いてあった。ピカチュウに靴下を履かせているのを、フトシは不審に思ったのだ。
「こいつめ、ピカジュウが好きなベティ推すの、繋がり狙いだな」
警備員は、ほっとしたのか、あきれたのか、すぐ持ち場に戻って行った。
「繋がり厨」と呼ばれる、アイドルにプレゼントを渡すふりをして連絡先を教え、あわよくばアイドルと個人的に仲良くなろうとするヲタが大勢いた。
そんな厄介を、フトシは一人で捕まえたのだ。
こんな芸当は、アセコムやアルソープなど、プロの警備員でも出来ない。
「やっだぁ! 大手柄だぁ! ごれでオラの評価がエモるのは間違ぇね。もすかすだら春本さんはオラのごどを、臨時の契約から正規の契約に、いや、もすがすだら、ドールキッズの正社員にすでぐれるがもすれねぇ。やっだぁ!」
フトシは天にも昇る気持ちでピカチュウを高く掲げ、関係者ブースに走る。その後ろ姿は、大きなピカチュウが小さなピカチュウを片手に持って走っていくようだった。
ひとり残った老人の警備員がメガネを拾い、優しくその中学生の男の子を助け起こしていた。
現在 シンガポール マリーナベイ・サンズリホテル
狩田は精も根も尽き果て、うつぶせでベッドに横たわっていた。
マリーナベイ・サンズリホテルのスィートルーム。
遠くからシャワーを浴びる音が聞こえる。
狩田は、どうにか動かせる腕を伸ばして、サイドテーブルのスマホを手に取った。
さっき中断させられた、ピーチバレーズの実況生中継を見たかったのだ。
