ドローンレーサー

 その周りには各国のセレブや、有名スポーツ選手、映画スターがびっしりと取り巻き、その中に、ハリウッドの人気女優、JJもいた。
 日本にいた時は「フジッコジェジェ」と呼ばれた人気CMタレント。唇が厚く、いつも口を半開きにしていたから、少しアホづらに見えるその女優の本名は富士子・ジョーンズ。 
 日本人と米国人のハーフ。まだ未成年だから保護者同伴なのだろう、隣にはステージママで有名な、日本人の「ジェジェママ」が座っている。国家主席以下、全員が立っているのに、ジェジェママだけ太りすぎて体が重いのか、座ったままだ。
 スターウォーズに出てきた、ジャバザハットを思わせる不敵な笑みを浮かべている。
 ジュライは日本人贔屓なのか、上品な微笑みを浮かべ、俺に向かって片手を上げた。
「最高に可愛い!」俺が手を振リ返すと、大きな笑顔になり夢中で両手を振りはじめる。
 俺が指さすと、驚いた顔をして両手で口をふさぎ「キャーキャー」騒ぎだす。
 もう一度俺の顔を見たときには、胸の前で両手を合わせ、祈りのポーズをしていた。
 中国の国家主席が、マイクを使って中国語で開会の挨拶を述べた後、大声で叫ぶ。
「各就各位!」
 すぐに英語の通訳が流れる。
「テイク・ユア・マーク!」
 その声とともに、パイロットはそれぞれのドローンに乗り込み、トレーラーから蜘蛛の子を散らすように、ドロクイとドロボイが逃げ出す。
 ドアを開けたまま、それぞれのメカニックと最終の話をする。
 俺の専属メカニックはジェロニモだ。亀爺さんが、秋子の方についている。
「今日は一月の満月、ウルフムーン」
 野太い声でジェロニモが言う。
 コックピットから夜空を見上げると、摩天楼の上に浮かぶ、黄色い満月が見えた。
「オオカミの月ということか。わかった、俺はオオカミになってやる!」
 俺は、そう言ってドアを閉めかけると、そのドアを押さえて、ジェロニモが言った。
「死は存在しない。場所が変わるだけ。これも先祖の言葉」
 俺はうなずいて、ドアを閉め、アイドリングを始める。
 ジェロニモは無表情なまま、拳をキャノピーの窓につけた。俺はガラス越しにグーパンチで答えると、ジェロニモは表情を変えず、トレーラーを降りていった。
「ヒャララン!」。「ヒャララン!」と、立て続けに二度、ラインの着信音が鳴る。