ドローンレーサー

 パドックブースを二ヶ所占拠しているのは中国の自動車メーカービッグ3の一社である、中華汽車有限公司のドローン部門、「中華風無人機有限公司」。
 中華風無人機有限公司は、深センにある、世界最大のドローンメーカー、DJYと、アリババアグループ、それに中華汽車有限公司の三社合弁で出来た会社だ。
 地元香港ということもあって、オールチャイナ体制で臨んでいる。
 中華風無人機のドローンは合計四機。
 四発のクワッドコプター、八発のオクト、十発のデカゴン、と、小型、中型、大型に加えて、変則型、五発のペンタゴンタイプ、全てを網羅している。
 どのドローンにも、ボディに龍が描かれている。口から火を吹き、手には金色の玉を掴んで「四匹の龍」とか「フライングドラゴン」と呼ばれ、恐れられている。
 円形のプロペラガードには一周ぐるりと、唐草模様が描かれているので、ラーメンどんぶりに似ていなくもない。中国最大の飲食店チェーンがスポンサードしており、赤いチャイナ服を着た可愛いウエイトレスのイラストと一緒に「味万拉麺」と描かれている。
 熱に弱いブラシレスモーターを急速冷却する液体窒素噴射機を備え、オーバーヒートしかけたら、モーターコアに小さなノズルで液体窒素を吹き付ける。その瞬間、ものすごい煙を出すのでドローンが白煙を出しながら飛ぶ姿は、熱々の空飛ぶラーメン。
 まさに昇龍。
 夜になっても、三十度以下にならない熱帯夜の続く香港では、かなりアドバンテージがあるだろう。地球温暖化が進行したせいか、真冬にあたる今も、うだるような暑さだ。
 四人のパイロットは男女二人づつ。全員、中国の国家的英雄。今回、優勝した者には、遊歩道にあるブルース・リーの隣に並べて銅像が建てられるそうだ。
 その他にも、アメリカからは、ドンフォード・ファイアーペーパーバードとマスタンゲ。 
 どちらの機体もビッグアメリカンブイ8だ。
 上から見ると、プロペラを支えるVの字型アームが、四方向に伸びているからV8と呼ばれているオクトコプターだ。低速トルクが強くて高馬力。
 ファイアーペーパーバードは、高出力すぎて時々火をふく。
 せせこましい市街地を飛び慣れていないアメリカ人パイロットは、この香港市街地レースはかなり苦戦するだろう。機体には大きな星条旗が描いてある。