ドローンレーサー

 狩田は、やれやれ、といった顔で、しぶしぶスマホをポケットに入れ、よっこらしょと立ち上がり、プールサイドをモンローウォークするジョセフィーヌの、プリプリ怒ったピンクのビキニのお尻の後を、とぼとぼ歩いてついて行った。

 未来  香港 Dー1グランプリ  

 香港Dー1グランプリは、市街地レース。しかも夜間行われるナイトレースだ。
 一億ドルのイルミネーション煌めく摩天楼の隙間を縫って飛ぶ市街地レースは、一般公道を走るFー1のモナコグランプリと同じく、ドローンが、ちょっとでも高層ビルに触れると大事故に繋がる命がけのサバイバルレース。
 コースとなる経路には、高層ビルすべてに人が群がり、ガラス越しに見ている。屋上にも、こぼれそうな人だかりが出来、旧市街の遊歩道はびっしりと群衆が陣取っている。 
 世界有数の人口密度を誇る香港に、海外から客が殺到し、すべてのホテルが満室となり、急遽、船を宿代わりにしたビジネスが流行し、大型船が停泊している海峡の隙間を、びっしりと、民泊用の小型船が埋め尽くしている。
 数えようがないので正確な数字はわからないらしいが、おそらく数百万人が、このビクトリアハーバーで繰り広げられる、Dー1グランプリを生で見物する。
 テレビやネットで観戦する世界中の人々は数十億人。サッカーのWカップより多い。
 人の乗れるドローンが市販されるようになってからまだ歴史が浅いので、ドローンは、カーレースの黎明期と同じと言えた。
 色んなアイデアを満載した、個性的なデザインのドローンが次々と登場する。
 国家も威信をかけて、自国のドローンメーカーの後押しをした結果、オリンピックのような雰囲気になってきていた。
 ここ香港は、世界一の経済大国となった中国から、いまだに特別行政区の地位を確保し、英国からの返還五十周年経過記念イベントが、ここ数年の間、続いている。
 ビクトリアハーバー沿いの、中環(セントラル)側、そこがパドックだ。
 十メートルおきに仕切られたパドックには、各社自慢のモンスターマシンが居並ぶ。
 未来の日本ではPONYやNEG、台湾ではホイホイなど、家電メーカーもドローンを作るようになり、それなりに業績を伸ばしていた。しかし、レースに賭ける情熱はない。
 安全第一の掛け声のもと、完全自動飛行の道を突き進み、レースには参加しなかった。