ドローンレーサー

 オクタデカゴンドローンは、少し高度を上げて、オリンピックスタジアムに近づく。
 オリンピックスタジアムは、生牡蠣をでろっと置いたような奇妙なデザイン案が撤回され、木で出来た、空が見えるオープンタイプになった。
 会場全体を取り囲む、入りきれなかった落ち武者の群れが大騒ぎをはじめる。バイクで乗り込んで来たB系ヲタが、冬なのに服を脱いでケンシロウになり、ヌンチャクを持ってヲタ芸を打ちだす。吐く息は白く、体から湯気が出ている。
 スタジアムは、上から見ると中心部分に穴が空いている。
 観客席は屋根があるが、アリーナ席は吹き抜けだ。
 その穴に、ゆっくりゆっくりと、オクタデカゴンドローンは近づく。
 爆発的な騒音のヘリコプターと違って、電動モーターのドローンは静粛だ。
「ビー!」というミツバチのような高周波音を立てるだけ。
 そもそもドローンとは、雄のミツバチを意味する。
 あるひとりの観客がそれを見つけて指差した。
「あつ! あれを見ろ!」
「なんだ? あれは!」
「ハチの大群か?」
「ユーフォーか?」
「スパイダーマンか?」
「ヘリコプターか?」
「いや、ゴンドラがぶらさがっているぞ!」
 夜空に浮かんだゴンドラはよく見えない。客が、目を凝らして見つめる。
「なんじゃぁ、ありゃ? ピンクレディーか?」お爺さんヲタが叫ぶ。
 スポットライトがゴンドラを照らすと、そこにはミニスカを履いたレイワが立っていた。
「うっぎゃー! レイワダァ!」
「レイワッ、レイワッ、レイワッ、レイワッ、レイワッ、レイワッ……」
 コールに合わせてレイワ推しヲタが、推しジャンを始めた。
 オクタデカゴンドローンはゆっくりと、時計回りに十二分回転する。
「キャー! ヘドロー!」
「ヘドロッ! ヘドロッ! ヘドロッ! ヘドロッ! ヘドロッ!……」
 ヘドロファンの、女ヲタが、推しジャンを始めた。
 さらに、ドローンはゆっくりと、時計回りに十二分回転する。
 次は韓だった。
「カンカンカンカン、サンカンバン、たこやき焼いても指焼くな、カンカンカンカン、サンカンバン、たこやき焼いても指焼くな」それが、カンちゃんに対する正式コールだ。
 次はベティ。そして最後にワンちゃん。
「ワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワン……」