狩田はむにゃむにゃと、鼻歌のような寝言を続ける。
 ジュライへの思いが、いつまでも忘れられないのだ。
「アナタハ マンゾクデハ ナイノデスカ?」
 狩田の言葉に反応したドローンが尋ねる。
「オー、イェーイェーイェー!」狩田はむにゃむにゃ、寝たまま答えた。
『アイキャントゲットノウ、サティスファクション、ノノノノー』とは、『俺は満足なんかしてねえぜ! 絶対にな、ダメだダメだダメだ』という意味だ。
「ソレデハ ドコニイキマスカ」と、ドローンは訊いた。
「フィジアウェイ、ウィズ、ジュライ!」
「フジノジュカイノ ムコウデスネ ヨロシケレバ テノヒラヲ オネガイシマス」
 ドローンに搭載されたAiは、日本語でも英語でも、何語でも理解できた。
 さらに、多少聞き取りにくくても、喋る人の言葉を、現在の飛行状況から予測する。
「ひなぐゎへきまで、ひってくれぇい」と、酔っ払ってロレツが回らなくても、その近辺に居れば、「シナガワエキデスネ ヨロシケレバ テノヒラヲ……」と、いう具合である。
 ドローンは後部に四人も載せ、後ろ過重となっていたので、水平飛行中も、かなり前傾姿勢で飛行していた。
 シートベルトをしていない狩田は、眠ったまま右手をタッチパネルに広げて自分の体を支えていたので、目的地変更の重要なコマンドは、すぐに静脈生体認証された。
 ドローンは御殿場上空で、左にゆっくり旋回し、東名高速上空を離れ、夜の富士山に向かって猛スピードで飛んだ。
 レイワ、ヘドロ、韓は、ミニスカと胸の大きく空いたエプロン姿のまま、後部シートの床に折り重なるように寝転んでいる。露わになった太ももとパンツが丸見えだ。
 三人が着ているエプロンには、大きなタコのイラストが描かれてある。
 ぴったりしたジャージの上着をはだけ、はみでる巨乳を締め付ける白いブラジャーのポーラも、口を開けたまま爆睡している。全員が絡まるように寝転んでいるので、突き出した手足は、どれが誰のかわからないほどだ。
 目を覚ました狩田が、大あくびをしながら後方を振り返りつぶやいた。
「まるでたこつぼに入った、四匹のたこみたいだ、大漁だな……」
 狩田が寝ぼけた顔を前に戻した瞬間、フロントキャノピーいっぱいに、月夜に浮かぶ、真っ黒い富士山が広がっていた。
「うわっ! なんだこりゃ!」