ドローンレーサー

 一夫一婦制なんて、太古のアホどもが考え出した弱者救済のシステムだが、この未来では、女性が強くなって、女が男を必要としなくなり、離婚率も未婚率も急上昇している。
 強い女が可愛い男の子を何人も、ものにするのだ。
 成功した男が、富と名声と、何人もの女たちをものにするのと同じ。
 未来では、男女平等な社会が実現しつつある。
 要するに未来型弱肉強食の世界になったということだ。
 この秋子も、今までに何人ものドローンボーイたちをおもちゃにしてきたのだろう。
 明日はいよいよ、世界ドローングランプリの初日。世界一のドローンメーカー、中国、深センに本社を置くDJYのお膝もと、香港で開催される。深センは香港からすぐそこ。
 中国のシリコンバレーと呼ばれて急成長を遂げた経済特区。
 今や、本家、米国のシリコンバレーを抜いて、世界一のホットスポットだ。
 ペニスシュワの窓から見える遊歩道には、ものすごい数の人々が、前の晩から場所取りをしている。明日のレースは世界中に実況中継され、数十億の人々が観戦する。
 海峡には、アラブ人大富豪の巨大クルーザーや観光船が、隙間なく浮かんでいる。
 空中には何機もの飛行船が浮かび、ひっきりなしに、報道用ドローンが飛び交う。
 巨大な看板群も、飛行船のボディに書かれた企業名も、中国メーカーだらけだ。
 五十年前頃には、「PONY」「CAMON」「NIHON」「Panaponic」「SHARPO」など、日本の会社の看板だらけだったと聞いた。今は見る影もない。
 これが俺にとって生まれて初めての海外。パスポートは、亀爺さんが、身元引き受け人になってくれたら、戸籍もないのに、簡単に取れた。
「どんどん外貨を稼いで、たくさん子供を産んで下さいね、応援しています!」と、俺のにわかファンだいう神奈川県パスポートセンターの女性が、エールを送ってくれた。
 俺はこれからどれだけ色んな国々を、ドローンレーサーとして転戦するのだろう?
 サッカーより、アメリカンフットボールやベースボールより、さらには世界一の大富豪からも羨望の眼差しで見つめられる、世界のトップオブザトップ。
 Dー1グランプリ世界チャンピオン。
 その座を巡って、明日、このビクトリアハーバーで死闘が繰り広げられる。
 俺のやるべきことはひとつ、明日、勝つことだ。