ドローンレーサー

「大手IT企業に勤めていたオラの友達は『ロスアのワールドカップにサムレエジャパンを応援に行くから一ヶ月休みをくれ』と言ったらグビになった。あいづは今、日雇いが、派遣ですのいでいる。ホワイト企業と呼ばれでいたあの大会社でもそうだ。すれに比べでオラの勤めるベンジャーは物分りがえぇ。オラが『アイドルの遠征に行くから三日休みをぐれ』と言ったら、『三ヶ月でも、三年でも、三十年でも、どれだけ休んでもいいですよ!』ど言ってぐれた。すすがアメリガ帰りの社長だ。だっだ十人すかいねぇ会社の社長だけんど、MBAという、なんだか凄いものをもっているらすぃ。バスケットの資格だろうか? 身長はオラより低いのに凄えやつだ。すかもオラより若え。オラぁ恵まれている、最高に幸せだ! トップヲタから、半ヲタに出世できたんだ。なによりオラぁ今、ピチバレのメンバーと同じ部屋の空気を吸ってる。ああ、すれだけで、オラぁいってすまいそうだ」
 フトシは心の中でそう思ったが、顔にはださず、心の中で自分に誓いを立てた。
「オラぁぜってぇにメンバーには手を出さねえ。接そくイベントでメンバーに連絡先をこっそり教えるような、繋がり厨のイケメンヲタや、イキリヲタは容赦すねぇ。オラが必ず見抜いて剥がすてやる。すれがピチバレをここまで育て上げたオラの義務だ! オラがメンバーを守り抜く!」
 フトシの唇は、燃え上がるような気持ちとともに、どんどん突き出してゆく。メンバー五人の背中を見ながら深く息を吸い込むと、突き出たお腹がさらに膨らむ。
 息を吸い終わると、壊れたラッパのように春本に向かって返事をした。
「ブはっ、ぶはひいっ、わ、わハりまヒたぁ、ブヒィ~!」
 フトシは、裏返った声で、そう言うとドアの外に出て行く。
 吹き出してきた汗をメンバーに見られたくなかった。
 フトシは「ブヒー、ブハー」と息をしながらハンカチで汗を拭う。 
 外気を入れて自分の体を冷やすため、エレベーターホールにある七階の窓を開けた。
 窓から下を見ると、正面玄関には、相変わらず出待ちのヲタが、白い息を吐きながら群がっている。