ドローンレーサー

 しかし、安いネットメディアにぶら下がるフリーライターは容赦しなかった。
 しつこく御殿場の自宅病院や、スバルの通っていた学校を嗅ぎまわる。
「事実を知る権利がある! 我々はジャーナリストだっ!」と言って、病院の中にまで入り込み、入院して寝ている老人まで叩き起こして潜入取材する者までいた。
 近所を嗅ぎまわり、スバルの中学や高校の同級生だった者を見つけては、あれこれ聞き出そうとする。しかし、
「へ? あいつが? まさか? あんなヲタがアイドルなんかと付き合えるわけないっしょ」
「冗談でしょ? あいつはスクールカーストの最下層だったやつですよ」
 と、異口同音に、同級生だった者たちは語った。
 目当ての本人は、一向に見つからない。
 そのうち、自称ジャーナリストたちも諦めて引き上げて行った。

 春本がゲキを飛ばした。
「みんな! 『一分間のランデブー』が、ウジフィルム、チャキのCMソングに決まった! 全員で出演してもらう! いよいよメジャーデビューということだ! 個別にも来ているぞ。レイワ、君にはチョイ役だが、テレビドラマの出演依頼が来ている。ヘドロ、君にはスポーツウェアのCM。カンちゃん、君には日韓親善大使の話だ、やってくれるね? ベティ、君にはハリウッド映画の吹き替えの話、声優デビューということだ。ワンチャンにも来ているぞ、小学生の人気雑誌ニコラルン専属モデルの話だ。年明けには新国立競技場、オリンピックスタジアムでの公演だ! みんな、頑張ってくれ!」
「嫌だっ! なんで私だけ、テレビに出られないのっ。そんなの嫌っ! うわっー!」
 韓が、バランスボールにつっぷして泣き出した。
「大丈夫だよ、大丈夫、カンちゃん、泣かないで、私だって声優だからテレビには出ないわ。でも私は嬉しい。だってアニメの声優に憧れてたんだから。カンちゃんも、泣かないで。頑張ろうよ、なんとかなるわ」
 ベティは韓の背中を優しく撫でる。
「日韓親善大使なんて、ジミで嫌っ……うっうっ……」
 無理もなかった。未来では人種差別も、性差別もほとんどなくなり、日韓親善なんていう言葉すら風化しかけていたからだ。
「事務所の力不足だ。ごめんね、カンちゃん」
 春本は優しく韓に語りかける。
「嫌っ! いやよいやっ! もっと謝って、もっと、もっとあやまって!」