「ああ、そのことも聞いてる。その事務所でちゃんと働いてもらったバイト代だろう」
「でも、なんでトップアイドルとつきあえちゃうわけ? あのだっさいお兄ちゃんが」
「可哀想だけど失恋だよ。あいつは元々少し弱い。ちょっと挫折すると、すぐに自暴自棄になる。短絡的なところがお母さんとよく似てる。あいつは臆病な草食動物みたいだ。群れの中でしか生きていけない。だから私の跡を継いで医者になれと言った。でも、もうその必要もなさそうだ。男は失恋や挫折を繰り返して強くなっていくんだ。そうだ、乙女、お前がこの病院を継がないか?」
「え? 私が? 嫌よ! 私は美容整形をやりたいの。で、このホクロとソバカスを、どうにかしたいの!」
「ホクロとソバカスが多いところだけは、お母さんに似たんだなあ……」
「ビーッビーッ」っと、いきなりブザーが鳴る。
「おっと、呼び出しだ」
父親は、椅子の背にかけてあった白衣に袖を通すと玄関から出て行く。
口から、ししゃもの尻尾が出ていた。
乙女が食卓の上に置いてあった、広げたままの手紙に気がつく。
見慣れた、下手くそな昴の字。それにはこう書かれていた。
お父さんへ
「苦しいことばかりの人生だったけど、先生のおかげで、
最後に楽しい人生だったと思えるようになりました。本当に有難うございました」
と、患者さんたちが、お父さんに感謝しているのを偶然知りました。
患者さんたちのために、夜勤が続くのを
一生懸命頑張っていたことも、みんなが知っていたようです。
それを知らなかったのは、僕とお母さんだけだったような気がします。
今までいろいろ心配かけてごめんなさい。
僕もお父さんのような、強くて立派な男になれるように、頑張ってみます。
昴
乙女はつぶやいた。
「芝居くさい……。バッカじゃないの」
現在 東京
オセロゲームの大逆転劇のように、全てが白にひっくり返ってゆく。
ピーチバレーズは、地下アイドルから一気に、表舞台に出ようとしていた。
心配されたレイワとスバルのスキャンダルも、しばらくすると、沈静化する。
なにしろスバルの存在がどこにも見つからないのだ。テレビや大手メディアは、スバルが一般人で、未成年ということを知って、取材を自粛する。
「でも、なんでトップアイドルとつきあえちゃうわけ? あのだっさいお兄ちゃんが」
「可哀想だけど失恋だよ。あいつは元々少し弱い。ちょっと挫折すると、すぐに自暴自棄になる。短絡的なところがお母さんとよく似てる。あいつは臆病な草食動物みたいだ。群れの中でしか生きていけない。だから私の跡を継いで医者になれと言った。でも、もうその必要もなさそうだ。男は失恋や挫折を繰り返して強くなっていくんだ。そうだ、乙女、お前がこの病院を継がないか?」
「え? 私が? 嫌よ! 私は美容整形をやりたいの。で、このホクロとソバカスを、どうにかしたいの!」
「ホクロとソバカスが多いところだけは、お母さんに似たんだなあ……」
「ビーッビーッ」っと、いきなりブザーが鳴る。
「おっと、呼び出しだ」
父親は、椅子の背にかけてあった白衣に袖を通すと玄関から出て行く。
口から、ししゃもの尻尾が出ていた。
乙女が食卓の上に置いてあった、広げたままの手紙に気がつく。
見慣れた、下手くそな昴の字。それにはこう書かれていた。
お父さんへ
「苦しいことばかりの人生だったけど、先生のおかげで、
最後に楽しい人生だったと思えるようになりました。本当に有難うございました」
と、患者さんたちが、お父さんに感謝しているのを偶然知りました。
患者さんたちのために、夜勤が続くのを
一生懸命頑張っていたことも、みんなが知っていたようです。
それを知らなかったのは、僕とお母さんだけだったような気がします。
今までいろいろ心配かけてごめんなさい。
僕もお父さんのような、強くて立派な男になれるように、頑張ってみます。
昴
乙女はつぶやいた。
「芝居くさい……。バッカじゃないの」
現在 東京
オセロゲームの大逆転劇のように、全てが白にひっくり返ってゆく。
ピーチバレーズは、地下アイドルから一気に、表舞台に出ようとしていた。
心配されたレイワとスバルのスキャンダルも、しばらくすると、沈静化する。
なにしろスバルの存在がどこにも見つからないのだ。テレビや大手メディアは、スバルが一般人で、未成年ということを知って、取材を自粛する。
