ドローンレーサー

「おはようございます!」と挨拶をした。
「ズッキリ!」というテレビの情報バラエティー番組。
 ハリニホンは、藤浩(フジヒロシ)と藤春子(フジハルコ)という人気の夫婦漫才コンビで、女房の方は少し太っている。その女房の方が切り出した。
「さーて、今日のトップニュースは、なんといっても、今や大人気のアイドルグループ、ピーチバレーズのメンバー、レイワさんのぉ、禁断のぉ、デート疑惑ですっ。お相手の男の人というのがぁ、ななななな、なんと、神奈川県御殿場市在住、まだ十九才の、浪人生というから驚きもものき、さんしゅのじんぎどぇ~すっ!」
 銀縁の丸メガネがずり落ちた。
「あれ? ちょっとまって! これお兄ちゃんに、似てる?!」
 乙女が箸でテレビを指差す。
「今やセ界のトップアイドル。かたや、浪人生、なぜにこの二人は、こんな関係になってしまったのでしょう!? 俺がかわりたいわ! うらやまピー!」相方の藤浩がボケると、
「あんた、なに言うてんねん! あんたの相手はこのあたし、ブ界のトップアイドル、マツドラオックスじゃねーよ!」と春子がつっこむ。
「千葉の松戸にラオックスはあらへんがね」
「そんなん知るかっ、あほっ!」 
 いつものように、あんまり笑えないオープニングトークをするハリニホンの二人から画面が変わり、東京タワーでレイワとデートをしている昴が映る。
 目線は入っているが、明らかに昴だった。
 他にも何枚か写真が出る。ナンバーをボカしてあるが、昴の愛車、ポンコツのRV4に二人が乗り込む写真と、動画まで出たのだ。
 若葉マークがついたRV4が映った瞬間、乙女は飲みかけの味噌汁を噴き出した。
「あちちちち、ちょっとお父さん! これお兄ちゃんよね!?」
「ああ、知ってたよ」
 父親はテレビを一瞥すると、興味なさそうに朝ごはんを食べ続ける。
「なんで知ってんの? ちょっと、お父さん!」
「ああ、あそこの芸能事務所の社長からだいぶ前に電話をもらってた。昴がその事務所でアルバイトするから、しばらく預かるって。数日前にも電話があって、このことを聞いたよ。昴のことを優しくて利口な少年だと言って褒めてたよ。声からすると、若そうな社長さんだったけど、なかなかしっかりしている。たいしたもんだ」
「じゃあ、このお金は?」
 と言って、乙女は学生カバンから、分厚い茶封筒をとりだし、食卓に置いた。