ドローンレーサー

 俺は、まな板に叩きつけられた紙をとって見た。
 それは週間文守のゲラだった。
『トップアイドル 東京タワー 手つなぎデート!』
『今や世界のアイドルグループ『ピーチバレーズ』のセンター、レイワが所属事務所関係者と禁断の恋か?!』
「てめぇ、かげでこそこそなにやってんだぁ! この大馬鹿野郎! 大事な商品に、手ぇつけやがって、でていけっ! いますぐでていけぇ!」
 ゲラというのは週刊誌などに載る、最終原稿のチェック用紙のことだ。スクープ専門の週刊誌でも発売前、関係者に「こんな記事を出しますよ」と言って、送ってくる最後通告。
 この業界の奇妙なマナーだった。
 と、いうことは、この記事が数日後に出るということ。
 俺は、黙ってエプロンを脱いで畳んだ。
 実はうすうす覚悟をしていた。あの後、ネットをチェックすると、あの女子高生たちが撮った、俺とレイワの写真がSNSでバズっていたからだ。
 週間文守の方は、俺が未成年の一般人ということで、目線が入り、俺だとはわからないようにしてあった。しかし、女子高生の方は、モロに俺の顔が晒されている。
 広部の携帯が鳴って、広部が応答した。どうやら社長の春本が俺を呼んでいるらしい。
 社長室に入るなり、俺は黙って頭を下げた。もう言い訳のしようもない。
「そんなことはよくあることだ。大して気にしていない。すぐに収まるだろう」
 うなだれて頭を下げたままだった俺は、社長の意外な言葉に、顔を上げた。
「君がここに来てすぐに、私は君のことを調べていたんだ。君は神奈川にある病院の息子さんらしいじゃないか。もし、レイワと君が一緒になっても、うまくいきっこないんだ。一度スポットライトを浴びた者は、もう普通の生活には戻れないんだよ、わかるだろう? ここは、君みたいな立派な若者の生きる世界じゃないんだよ。帰って、お父さんの跡を継ぎなさい。その方がいい」
 そう言い終わると、茶封筒を俺に差し出した。
「これは今日までのバイト代だ。多くはないが受け取ってくれ。そういう約束だったからね。ただし、ひとつ頼みがある。みんなには、会わずに出て行ってくれ。そして、もう二度と彼女たちと連絡をとらないでくれ。それが君のためでもあるし、彼女たちのためでもある。いいね」