ドローンレーサー

 ポーラと同じことを言うんだな、と、俺は思った。
「未来では底辺層に生まれると、見物なんてしている余裕なんてないんだろうな……」
 俺はエレベーターの中で、急に抱きしめてやりたいぐらい、レイワを愛(いと)おしく感じ、リアコに陥りそうだった。
 第二展望台まで着くとエレベータのドアが開く。
 ポーラと来た時と同じく、夕日が射し込む、オレンジ色の世界だった。
 外に見える東京じゅうが、オレンジ色に染まっている。
「うわぁ! 綺麗……」
 レイワは思わずサングラスとマスクを外し、夕日の沈む方に駆け出す。
 ちょうど富士山に、オレンジ色の夕日が沈む寸前。
 俺たち二人は息を飲んだ。
「ねえ。記念写真撮ろうよ!」
 レイワはそういうと、カード型スマホを取り出し、俺の横にぴったり並んだ。
 肩と肩がぴったりくっついて、俺はどぎまぎする。
 俺も自分のスマホを取り出し、レイワのカード型スマホの横にくっつけ自撮りした。
「ね、ラインアドレス教えてよ」とレイワが切り出した。
「え? 俺たち、ラインで通信できるの?」
「やってみなきゃ、わからないじゃない」
 レイワがフルフルしはじめるのにつられて、俺もフルフルした。
 その瞬間、ピカッとフラッシュが光った。
「あ、あ、あ、あの、もしかして、ピチバレの、レイワ、さん、ですかぁ?」
 セーラー服を着た女子高生だった。
「キャー! やっぱりそうだっ! レイワよ、レイワ! みんなっ! ピチバレのレイワがいる! ぎゃーっ!」
 あっという間に、第二展望室に居た、修学旅行の女子高生たち全員がレイワを取り囲んだ。スマホの写真攻めが始まる。
「ぎゃー!」
「キャー!」
「ヒーッ!」
「きれい~!」
「カワイ~!」
「ゲーノーじんよっ! ゲーノーじんっ!」
 俺たちは大慌てで逃げ出した。しつこい数人はエレベーターの中にまで乗り込んできて写メを撮りまくっている。
 やっとのことで車まで戻って走り出すと、女子高生たちは、走り去る車の後ろ姿をまだしつこく撮っているのがバックミラーで見えた。

 あくる日の夕方、俺はいつものように、エプロンをして夕食の準備をしていた。
 そこに顔を真っ赤に上気した広部が来た。広部は紙をまな板に叩きつけると、
「ふざけるなっ! このやろう! てめぇ、雑用係の分際で、なにやってやがるっ!」