だから生徒の代表を選ぶ生徒会選挙のことを、どこか他人事のように思う空気が生徒の中に確かにあった。

「そんなの許せないだろ! 俺は生徒会長になるためにずっと頑張ってきたのにそれに、俺は知っているんた?。彼女か?と?んな人間か」

 拳を震わせ、顔を歪ませる小野を見て香は心苦しい。
 小野は小さい頃からリーダーシップを発揮しみんなをまとめ、下級生の面倒も見る優しいお兄さんという印象を今も香は抱いている。

 優斗くんが、こんなに怖い顔をするなんて、よっぽど悔しいんだ。
 
 そんな小野の心象を知ってかしらずか、光輝は軽薄な笑みを浮かべながら小野の隣へ腰掛け、ガバッと肩を抱く。

「わかる、わかるよその気持ち。頑張ったのに報われないって辛いよな」
「ま、まぁ……」
「それでな、未来の生徒会長にお願いされて、こっちも頑張るんだわ。それって、つまり、何か見返りを期待していいのかなぁ?」

 悪そうな顔で笑う光輝に対し、小野は困った顔をするが仕方なし、と肩に乗った小野の腕を下ろす。

「校閲部を、正式に部活動として認可するように動くよ」
「よっしゃー! 予算! 予算! 予算でバカンス行きたーいなー!」
「だめだ」

 独自のリズムで盛り上がる光輝を前に、冬木はぴしゃりと声を上げる。

「部活動の申請には三人以上の部員、顧問の教師の確保が必須条件。それから初めて必要な書類を提出し、生徒会と先生方から審査に計られ、承認される。それが正しいやり方だ」
「硬いなぁ冬木ちゃん。でもさ、部員ならもう三人いるじゃん」
「宇治先輩は三年生だ。今部活動にしたところで来年には部員不足で廃部。意味がない」
「じゃあそこのなんとかちゃんが」

 光輝に指さされ、香は口の中のワッフルを急いで飲み込む。

「香(かおり)です。彩田香。色彩に田んぼに、香水の香で、さいだかおりです」
「さい、た、こう、略してサイコーじゃん」
「サイコーちゃん?」
「サイコーちゃんが部員になったら……」
「そもそも俺は校閲部なんて存在しない部活動の部員になった覚えはない。俺はただ校閲の作業をしているだけだ」
「……あのー」

 所在無さげに小野が手を挙げると、満が申し訳なさそうに原稿を手に取る。