木製の珠のれんを押して店の奥から大柄なおじさんが出てきた。エプロンが似合う、町のパン屋さんみたいな見た目だ。

「おお! 満が女の子を呼ぶなんて、ちょっと待ってな。今なんか甘いもの持ってきてやるからな。女の子は甘いものが好きだからな」

 豪快に笑いながら嬉しそうにおじさんは奥へと帰っていくと、満はえぇっと、と気まずそうにこめかみを掻く。
 
「ここ僕の家で、さっきのはお父さんなんだ。女の子は甘いものが好きとか決めつけて。悪気はないんだけど、ごめんね」
「大丈夫です、私甘いの好きなんで」

 そっか、と申し訳なさそうに笑う満を見て似ているのは体型だけだなと香は失礼にも思った。

 カランカラン。

 扉が開き、同じ学校の制服を着た男子生徒が入ってくる。それは見覚えのある、と言うか香の知り合いで一瞬言葉が詰まる。

「優斗く、……小野先輩?」
「香ちゃん?」

 清開高校の二年生で生徒会に所属する小野優斗と香は同じ小学校に通っており、集団下校の班が同じだったこともあり昔はよく一緒に遊んでいた。

「小野くん、待ってたよ」
「まさか、小野先輩も校閲部なの?」
「僕は校閲部に依頼をしにきたんだよ。香ちゃんこそ、もしかして校閲部なの?」

 えっと、と言葉を濁しながら振り返るとテーブルに座る三人も香を見ていた。

「私は……」
「お待たせ、当店自慢のワッフルだよー」

 皿を持った満のお父さんが珠のれんを押してやってくる。珠のれんが暴れ、ジャラジャラと音が鳴る。瞬間、アクリルキーホルダーをジャラジャラと鳴らしていた優花の言葉が頭によぎった。

「私は、体験入部で……」