「ほら見ろ入部希望者だ。俺の勘は当たるんだ」
「まだ入りたいって言ってないだろ。それに、俺たちは部活じゃない」
「いやでも入りたいって言ってたじゃん」
「言ってないだろ。曲解するな」
「キョッカイってなんだよ! わざと難しい言葉使うな!」

 騒がしい光輝と、冷静な冬木のやりとりを見て香の頭に疑問が浮かぶ。

「え、部活じゃないんですか?」
「実は、そうなんだ」

 満は照れ笑いを浮かべる。

「僕はもともと文芸部でそこの二人は新聞部。だけどまぁ色々あって校閲部をやってるんだ」
「……その、校閲部ってなんですか?」

 満はそうだよね、と小さく頷き、机の上に置かれた紙を香に見せる。
 紙には小説のような文章が書かれており、所々文字が赤ペンで二重線を引かれたり、文字をまるで囲み、『トル』と書かれていたり、はたまた鉛筆で書かれた小さなメモ書きがあちこちに点在する。
 情報量が多い紙面に見入り首を傾げていると、満は喉を鳴らし香が顔を上げる。

「校閲部というのは、誤字脱字のチェックをしたり、書面の内容が正しいかどうかを確認したり、時には取材したりもする、出版社に実在する仕事なんだ。最初は新聞部が発行する学校新聞と文芸部の部員が書く創作小説を校閲していたのだけど、そのうち保健だよりとか学習発表の原稿、あとは校長先生の挨拶とか、とにかく依頼があればなんでも校閲するようになったんだ」

 満の説明を聞いて、香は「あぁ」と小さく唸った。

 思えば月に一度行われる全校集会の場において校長先生の挨拶が最近は要点がまとめられ簡潔でいてわかりやすくなったと評判で、みんな耳を傾けるようになっていた。以前はだらだらと長く、脱線に次ぐ脱線で結局何が言いたいのかわからず、みんな私語や居眠りが多発していたのに。

 まさか、校閲部のおかげだったなんて。

「と言っても本当の部活としては認められてはないんだけどね」
「え、……あ!」

 香はふと、先ほど見た裏学校新聞を思い出す。

「非公式で非公認で期間限定な部活って校閲部のことで……」
「非公式と非公認は同じ意味、そもそも期間も限定されてない。どれも正しくない」

 舌打ちをする冬木に対し、光輝は「こっわ」と茶化した。
 香も心の中で光輝と同じように呟いた。

「いらっしゃい」