「ほらここ見てください」

 部活動代表者の欄に押された部長である香の彩田の印と生徒会長の欄に押された小野の印。その間の顧問の欄には「重田」の印が押されている。

「重田? そんな先生いたっけ?」

 首をひねる光輝の横で、冬木は思いついたように声を漏らす。

「重田って……お前」
「うん、校長先生だよ」

 香はあっけなく言い切った。校閲部の顧問は重田徳則、清開高校の学校長だ。
 光輝は面白そうに声をあげて笑う。

「校長が部活の顧問ってありなの?」
「わかんないけど、お願いしたらいつも世話になってるからってすぐにOKしてもらえたよ。その代わり今後も校長先生の挨拶の校閲を頼むって」
「それ取引じゃね?」
「まぁ、多少の取引ぐらいはしますよ。正しいことのためならね」
「ぐっ……」

 柊の証言と金森の犯行を伽耶響に教え、響から小野の不正の証拠をもらう取引をした冬木は何も言い返せなかった。
 苦虫を噛んだように顔を歪ませる冬木の脇を突き、光輝はぼそりと呟く。

「な、お前に似てるって言っただろ」
「うるさい」

 冬木は光輝の足を踏む。
 二人のやりとりを微笑みながら満は香へ問いかける。

「サイコーちゃんにとっての正しさって?」
「……まだわかりません」

 だけど、と続ける。

「私は正しさを大切にする校閲部を通して、自分の正しさを見つけたいって思います」


 校閲部ができて一週間。
 誰も部室を訪れることなく、清開高校は夏休みに入ろうとしている。
 香は階段を上がり、校閲部と書かれた真新しいプレートが掲げられた教室へ。伽耶響の部室同様、広さは普通の教室の半分しかないが、この学校に新たに「校閲部」の部室が誕生したこと自体、大きな一歩だと信じたい。
 香が扉を開けると右の席で冬木が原稿に鉛筆で書き込んでいる。左の席で光輝は退屈そうに原稿を読んでいる。
 冬木は香を見るなり、原稿を突きつける。

「ここ最初のページ、青天の霹靂の字が違う。正しくは霹。これは霜だ」

 香は冬木が持つ原稿を手で払いながらカバンを下ろし部長席である真ん中の席に着く。

「えーだいたいわかるでしょ、これ読んでる人みんな気づいてないって」
「正しさが大切なんだろ、ほらやり直し」
「サイコーちゃんがんば」
「お前も、チェックが抜けてる」
「口うるさいねー」
「ねー」