「この度、次期生徒会長になります、二年三組、小野優斗です。……えっと」

 それから、小野は語った。
 投票をしてくれた生徒への感謝を。
 選挙で争った柊霧子と、今後は力を合わせて生徒会活動をしていく未来を。
 そして、生徒会長して生徒会活動に邁進することを約束した。

 しかし、小野の言葉は半分くらいしか理解できなかった。
 つまるし、噛むし、慣用句の誤用もするしで散々なスピーチだった。
 だがそれでも、両目から溢れる涙をぬぐいながら、嗚咽しながら語る小野の姿勢に生徒は魅入っていた。

 最後に深々と一礼する小野に対し、再び拍手の雨が降り注ぐ。

 涙を流す小野を見て、香は昔を思い出していた。
 確かに小野は誰よりもリーダーシップを発揮し、みんなをまとめる良いお兄ちゃんだった。しかしみんな子供だった。登下校の集団下校などに班員の生徒が小野のいうことを聞かずに遊んでいると小野は「なんでいうこと聞いてくれないの?」とよく泣いていた。

 優斗くんは昔から変わっていない。完璧ではないかもしれないけれど、素直で優しいお兄ちゃんのままだ。
 香は誰よりも大きく、手を叩いて小野にエールを送る。

 そこから斜め後方の列の中で手を叩きながら、冬木は深いため息をつく。

「日本語がめちゃくちゃだ」
「でも、伝わってるねー。小野の誠意が」

 隣で指笛を鳴らす光輝は「よっ! 泣き虫会長!」と軽快にヤジを飛ばす。
 冬木は、口元を緩ませる。

「あぁ」

 結果、小野が生徒会長、柊が副会長に任命され選挙は幕を閉じた。

 ざわざわと教室に戻る生徒の波をかき分けて満が香の元へやってくる。

「サイコーちゃん。ちょっとお願い事があるんだけど」
「はい?」

 一週間後。

 帰りのホームルームを終え、エナメルバッグを背負った優花が香の席へと歩み寄る。

「どう? そろそろバレー部に入る決心した?」
「もう部活入ったんだ」
「嘘?!」
「しかも私、部長だよ」
「えぇ?! なんて部活?」

 想像通りにリアクションをとってくれる優花に感謝しつつ香は堂々とした態度で答える。

「校閲部」
「……こうえつ、部?」

 香の言葉を脳内で変換できず、そのまま音だけで繰り返す優花。そのリアクションもやはり想像通りだった。
 噴き出しながら香はじゃあね、と誰よりも早く教室を飛び出す。