壇上へとかかる階段を登る小野優斗と柊霧子。
 一歩が重たい小野に対し、柊は軽やかに上がり自席へ腰を下ろす。

 小野はあの後、柊が金森から勧められた不正を断ったことを冬木から知らされた。

 だったら、不正を理由に柊に嘘の罪を被せて失墜させようとしていた俺は、なんだったんだ。俺は、俺なりに正しいことをしているつもりだったのに。
 俺は、どこで間違ってしまったんだ……。

 席に座り、柊の顔を見ると、視線があいそうになり小野は顔をそらす。
瞬間、小野は全てを理解した。
 
 俺は、ずっと柊霧子を恐れていた。最初は何もかもが完璧な柊に負けないように誰よりもやる気を出して頑張った。しかし共に活動するうち、俺は柊に何一つ勝てるところがないと理解し、絶望した。
 そのうち、柊のことを恐れ、そして認めることができなくなった。

 今更な自己理解を、自身の行いを悔やみ、小野は俯く。
 もう誰の顔も見られなかった。見たくなかった。

 生徒会選挙実行委員の生徒がマイクを持ち、喉を鳴らす。

「えー集計の結果を発表します」

 体育館を静寂が包み込む。

「小野優斗さんの票数、652票。柊霧子さんの票数、577票」

 会場が一瞬、波打ち際のようにざわめく。

「よって次期生徒会長は小野優斗さんに決まりました」

 選挙実行委員の生徒が告げると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。

「嘘だろ……」

 顔を上げた小野は眼下で拍手を送る生徒たちを見渡し、柊の方へ顔を向ける。柊はすくりと立ち上がり、小野に対し、握手を求めて手を差し出す。
 小野はぎこちなく立ち上がり、柊の手を掴む。
 いたたまれない気分のままの小野はやっとの思いで声を出す。

「お、俺……」

 しかし、小野の言葉を遮り、柊は微笑む。

「小野くんはこの学校で誰よりも生徒会長にふさわしい人だよ。近くで見てきた私が言うのだから間違いない。たまに暴走しがちだけど」
「え?」
「みんなも小野くんが生徒会長にふさわしいと思ってる。だから、選ばれた者の責任を果たしなさい」

 柊はこれまでに学校の誰にも見せたことがない朗らかな表情から、最後はこれまで通りの柊霧子として凛とした声で小野の背中を押す。
 
 小野は柊に押されるまま、演台の前に立つ。
 大勢の生徒が次期生徒会長の言葉を待つ。