香が扉を押し開くと吊るされたベルがカランカランと乾いた音を鳴らす。
 クーラーが効いていて涼しい。だけど木製のテーブルや椅子から温かみを感じる。テーブルが三つにカウンター席が少し。小さな天窓はステンドガラスで差し込む陽に彩りを与える。
 香はすぐに「喫茶・朝日館」を気に入った。あたりを見回しながら奥へ進むとテーブル席に座る清開高校の制服を着た男子生徒が三人ほど座っていた。それぞれ紙面に何か書き込んでいる様子で香に気づいていない。

 勉強してるのかな。

 しかし机の上に教科書や参考書のようなものはなく、カバーの色が異なる国語辞典がいくつも積まれていた。そのうち手作り感溢れる紙製の三角柱が目に入る。そこにはマジックペンで「校閲部」と記されているが香には読めなかった。

「こう、……なに部?」

 見慣れない漢字に思わず声が出てしまった。香には目に入った文字をそのまま口に出してしまう癖があるが本人は自覚できていない。
 すると席に座っていた三人はそれぞれ手を止め、顔をあげる。

「きみは校閲部の入部希望者かな? それとも依頼人?」

 膨れたお腹をさすりながら太った男子生徒、宇治満は優しく問いかける。

「こうえつ、ぶ?」
「うーん、俺の勘では……入部希望者だな」

 香の言葉を無視してそう言い切ると短髪の男子生徒、安達光輝はニカッと笑う。

「…………」

 色白の男子生徒、桐谷冬木はちらりと香を見て、すぐにまた紙面に赤ペンで書き込む。

 なんだこの人たち……。でも、校閲『部』ってことは部活動ってことだよね? もしかして私、勧誘されてる?

「それで、きみはなにをしに来たの?」

 香の思考は停止寸前だった。
 何か答えなければと焦り、香は自身の気持ちをそのまま吐き出す。

「……えっと私、部活に入ろうと思って、でも入りたい部活がなくて。でもなにかしたい気がして。いや、違うかも、何かしないといけない気がして。それで……」

 口を動かしながら自分が見当違いなことを言っているという自覚はあったが止められなかった。言いたいことを言い終わると押し黙る三人と目があった。香はバッと顔を下げ、やってしまった、と顔が青ざめたり、恥ずかしさで顔を赤らめたりと首から上が忙しい。とにかくここから逃げ出したいと顔を上げると、ニヤリと口角を上げた光輝と目があった。