響は光輝にグッと近づき、正面から見上げる。しかし、光輝は少しも迷うそぶりを見せず、すぐに金森が捨てようとした投票用紙を投票箱に入れ直す。

「俺相方いるから」
「そっか、残念」

 言葉とは裏腹に嬉しそうに響がカメラを向けると安達は無邪気にピースした。


 時を同じくして柊の控え室。
 席に着く柊を前に宇治満と彩田香は今回校閲部としての動きを説明したところだった。

「ーーということなので、不正は起きません」
「ありがとうございます」

 素直にお礼を言う柊に香は戸惑いを隠せない。今までのトゲトゲしていた印象の理由は先ほど演説で、本人の口から赤裸々に語られた。もうそうやって自分を強く飾る必要もなくなったのだろう。
 柊は可愛らしい笑顔を浮かべ、懐から演説原稿を取り出す。

「でも、こんなサービスまでしてくれるのね、校閲部さんは」

 満が直前に柊の演説原稿の端には一言、「落ち着いて」とメモが書かれていた。校閲部として、柊に余計な不安を与えないように小野の企みについて伝えないことにした。

「て?も、黙っていればそのまま生徒会長になれたのに」

 満は朗らかな顔でそう言うと、柊は小さく笑った。
 
「そんなの意味がないでしょう。演説でもいったけど、私はお父さんの娘としてじゃなくて、自分として、自分の力だけで生徒会長になりたかった」

 話しながら俯くと柊は少しして「ううん」と声を漏らし、首を横に振る。

「正直にいうと、生徒会長になろうと思ったのもお父さんに認めてもらいたかったからだと思う。でも結局、お父さんは私のこと信じていないの。先生に不正を働かせるなんて……」
「お父さんがそう言ったんですか?」
「家で口聞いてないから知らないけど、そうに決まってる」
「そんなことないて?す」

 香ははっきりとした口調に、柊はかつてのような少しだけ眉を寄せ、不機嫌な顔になる。

「……なんでそう言い切れるの?」
「私、聞いてきましたから」
「聞いてきた? 何を? 誰に?」

 香は当たり前のようにさらりと答える。

「娘のことどう思ってんのって。教育長に」
「お父さんに?」
「教育長に?!」
 
 声を重ねる二人に対し、香は姿勢を正し、事情を説明する。

「宇治先輩に見せてもらった柊さんの演説原稿を読んで、私は違和感を覚えました。